逆流性食道炎の治療薬で胃がんリスク?ピロリ菌除菌後の注意点をつくばの専門医が解説|辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック|茨城県つくば市の大腸・肛門外科 消化器内科 内視鏡検査

〒305-0032 茨城県つくば市竹園1-4-1 南3パークビル2階
つくば駅から徒歩5分の大腸・肛門外科 消化器内科 内視鏡検査

トピックス TOPICS

診療時間
9:00~11:30
14:00~16:30

休診日:日曜、祝日
※予約がなくても外来診察をいたしますが、予約していただかない場合は、受付も含めて大幅にお待たせしてしまうことがあります。
※診察医師の希望がある場合は、担当医表をご確認のうえ電話でご予約ください。予約がない場合は、医師の希望をお受けできないことがあります。
※午前・午後とも初診を受け付けております。
※NEWSにて担当医表のご案内をしております。

逆流性食道炎の治療薬で胃がんリスク?ピロリ菌除菌後の注意点をつくばの専門医が解説

「胸やけがする」「食事の後に胃酸が上がってくる」といった不快な症状で逆流性食道炎と診断され、治療されていませんか?
逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、食道に炎症が起きたり、不快な症状を引き起こしたりする病気です。
統計によると、日本人の約7人に1人がこの症状を経験すると言われるほど、非常に身近な疾患です。
しかし、この治療薬である制酸剤のPPI(プロトンポンプ阻害薬)が胃がんのリスクであるかもしれないと報告されています。

この記事では、

・どのような方がPPIにより胃がんリスクが高くなるのか?
・逆流性食道炎に対してPPI内服以外にどのような治療選択肢があるのか?
・逆流性食道炎に対してPPI内服が必要な方はどうすればよいのか?

についてご説明します。



1. 逆流性食道炎の治療とPPI(プロトンポンプ阻害薬)の役割


逆流性食道炎の治療では、食生活の改善や規則正しい生活といった生活指導ももちろん重要です。特にガイドラインでは、食事を食べた後に3時間程度横にならないことが推奨されています。

しかし、それだけでは症状が十分に改善しない場合も少なくありません。そのような時に非常に有効なのが、薬による治療です。

「PPI(プロトンポンプ阻害薬)」や「P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)」といった薬剤は、胃酸の分泌を強力に抑えることで、食道への刺激を和らげ、つらい胸やけや呑酸などの症状を劇的に改善します。ガイドラインでも最も重要な治療として位置づけられています。

これらの薬剤は、多くの逆流性食道炎患者様の苦痛を和らげ、快適な生活を取り戻す上で不可欠な存在です。

逆流性食道炎について


2. PPIの長期使用と「胃がんリスク」の気になる報告


PPI(胃酸抑制剤)は逆流性食道炎の治療に大きな恩恵をもたらしますが、近年、これらの薬剤を長期間服用することと胃がんのリスクについて、国内外で盛んに研究が進められ、議論が交わされています。

学術的には、胃酸抑制剤が胃がんを直接引き起こす「原因」であると断定されているわけではなく、その詳しいメカニズムも完全に解明されているわけではありません。しかし、「特定の状況下では注意が必要である」という報告が複数なされているのが現状です。

重要な点は、全ての人が同じようにリスクを抱えるわけではないという点です。一方で、逆流性食道炎に対してPPIなどの胃酸抑制剤が非常に効果的であるという事実は揺るぎません。そのため、国内外の主要なガイドラインでは、症状の改善や食道炎の治癒のために必要な場合には、これらの薬剤の使用を推奨しています。



3. ピロリ菌除菌後のPPI長期使用は要注意!


PPIと胃がんリスクの関係を考える上で、最も注意が必要なのは、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療を受けたことのある方です。

複数の大規模な研究、特に胃がんの有病率が高いアジア地域からの報告では、ピロリ菌除菌後の患者において、胃酸抑制剤の長期使用が胃がんのリスク上昇と関連する可能性が示唆されています。

例えば、香港からの大規模なコホート研究(Cheung KS, et al. Gut. 2018)では、ピロリ菌除菌に成功した方の中で、胃酸抑制剤を週に1回以上服用した患者は、胃がんの発症リスクが約2.4倍高くなることが報告されました。
このリスクは、胃酸抑制剤の使用期間が長くなるほど顕著でした。例えば3年以上服用している場合は、胃がんリスクが約8倍にまで増加する可能性が示されています。

また、日本からも大規模なレセプトデータを用いた研究(Arai J, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024)が発表されています。
やはり、胃酸抑制剤の長期内服で、ピロリ菌除菌後の胃がん発症リスクを高める可能性が指摘されています。

これらの報告からは、ピロリ菌除菌によって胃がんリスクは大幅に低下するものの、除菌前にピロリ菌が胃粘膜に与えたダメージ(胃の萎縮など)が背景にあり、そこに強力な胃酸抑制が加わることで、胃の粘膜の微細な環境変化(例えば、ガストリンというホルモンの過剰な分泌や、胃内細菌叢の変化など)が生じ、がんの発生を助長する可能性が考えられています。

2025年のつくば市胃内視鏡健診の研修会でもこのあたりのことの講義があり、話題となっていました。胃内視鏡検査にかかわるつくばの内視鏡医として、解決していくべき問題だと考えています。

2025年つくば市胃内視鏡検診研修会について


4. ピロリ菌未感染者の場合はどうか?


一方で、元々ピロリ菌に感染していない(未感染)方の場合、PPIの長期使用と胃がんリスクの明確な関連は、2025年時点では強く示されていません。

なぜなら、胃がんの最大の原因はピロリ菌感染であり、ピロリ菌が胃粘膜に引き起こす慢性炎症や萎縮が、胃がん発生の主要な経路だからです。
ピロリ菌がいない状況では、PPIが胃がんリスクに与える影響は限定的であると考えられています。

胃酸抑制剤を内服すると胃のポリープが増えることが知られています。
現状では、これが胃がんのリスクとはされていませんが、こういった点も含めて引き続き研究の進展が待たれます。



5. リスクとメリットのバランスを考えた当院の方針


逆流性食道炎の症状緩和のためにPPIが不可欠な患者様が多いのは事実です。
しかし、特にピロリ菌除菌後の方には、胃がんリスクの可能性を考慮した、より個別化された柔軟な治療選択をご提案しています。


5-1. オンデマンド治療のすすめ

常に薬を服用し続けるのではなく、「症状がある時だけPPIを服用する」という、服用期間を限定する方法をオンデマンド治療といいます。
症状が落ち着いている期間は服用を中断し、必要な時のみ服用することで、薬の総量を減らし、長期的なリスクを抑えることを目指します

これにより、症状コントロールとリスク低減の両立を図ります。
オンデマンド治療はガイドラインでも紹介されている、重要な治療戦略だと我々は考えています。
特に胃酸抑制剤であるタケキャブやPPIでは、胃酸抑制作用が早期に出現することが知られているため、妥当性のある治療となっています。


5-2. 漢方薬やその他の治療法への置き換え

症状の程度や患者様のお体の状態、ライフスタイルに応じて、胃酸抑制剤の治療法を積極的に検討しています。
例えば、胃の機能改善を促す漢方薬(例:六君子湯)や、消化管の動きを改善する薬(例:モサプリド)などを用いることで、胃酸を強力に抑えることなく症状の改善を目指します。

これにより、患者様の負担を軽減し、より自然な形で症状のコントロールを試みます。
これらの薬剤はガイドラインなどでも紹介されている、推奨度の高い治療です。


5-3. 定期的な内視鏡検査による胃粘膜のチェック

胃がんリスクが高いとされるピロリ菌除菌後の方には、定期的な胃内視鏡検査(胃カメラ)を強くお勧めしています。
いままで見てきたように、特に逆流性食道炎の治療により、胃がんのリスクが増加しうるため、このような方は毎年胃カメラをするのをお勧めします

これは、逆流性食道炎のチェックのためではなく、胃がんの早期発見のためです。



6. それでもPPIが必要なあなたへ


他の治療法では症状が十分に改善しない場合など、胃酸抑制剤の継続的な使用が不可欠な方もいらっしゃいます。
そのような方々にとって、胃酸抑制剤は日常生活の質を維持するための重要な薬です。

ガイドラインでも、今まで述べてきたようなリスクを鑑みつつも、第一選択として勧められている薬剤であるため、必要な場合は胃酸抑制剤を使用しましょう。


6-1. PPIが生活の質を守る現実

強い胸やけや喉の不快感は、食事や睡眠を妨げ、集中力の低下など、日常生活に大きな支障をきたします。
胃酸抑制剤は、これらのつらい症状を効果的に抑え、患者様が快適な生活を送るために不可欠な薬剤です。

大切なのは、メリットとリスクのバランスを理解し、適切な管理を行うことです。


6-2. 胃カメラによる「早期発見・早期治療」が鍵

最も重要なことは、胃がんを早期に発見することです。
早期の胃がんは、多くの場合、内視鏡を使った切除で治療が可能であり、体への負担も少なく、完治が期待できます。

進行してしまうと手術が必要になったり、治療が複雑になったり、予後にも影響を及ぼす可能性があるため、症状がない段階で定期的に胃の状態を確認することが何よりも大切です。

胃酸抑制剤を内服することで胃がんのリスクが上がるとする報告は多いことは確かです。
一方で、胃がんは早期発見により治る病気です。
逆流性食道炎に対して、胃酸抑制剤を使わなければならない状態について、避けることが出来ないのであれば、それによる合併症である胃がん発生について、適切に対処するということが重要です。

毎年胃内視鏡検査を行うことは苦痛であったり不安であるかもしれません。
当 院では鎮静剤を用いた苦痛の少ない内視鏡検査を提供しています。ご不安な方はご相談ください。


まとめ


逆流性食道炎の第一選択治療薬である胃酸抑制剤の合併症である胃がん発生について見てきました。特にピロリ菌除菌後の方は胃がんのリスクを増やす可能性があります

症状が落ち着いてきたら、

・胃酸抑制剤のオンデマンド治療
・漢方薬などのほかの治療への切り替え
・胃酸抑制剤が必要であれば、できれば毎年胃内視鏡検査

などの選択肢があります。

いずれにせよ、定期的な胃内視鏡検査を避けられないのであれば、苦痛の少ない胃内視鏡検査を提供している施設にもご相談されることをお勧めします。

当院では、鎮静剤を使用した無痛で楽に受けられる胃内視鏡検査を行っており、逆流性食道炎の経過や治療の副作用について不安に感じている方にも、多くご相談をいただいています。

「苦しい検査は避けたいが食道や胃に病変があるのが不安」——そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。

AIを活用した最新の内視鏡機器と消化器領域の専門医による丁寧な検査で、安心して受けていただける環境を整えています。
当院は、茨城県の内視鏡検査おすすめクリニックとして紹介されており、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県全域の広い地域から多くの患者様が来院されています。

つくば市の当院が茨城県のおすすめ内視鏡検査医院に選ばれました

Q&A|よくあるご質問

除菌後であっても、逆流性食道炎の症状が強い場合はPPIの内服が必要なことがあります。ただし、リスクを考慮しながら、オンデマンド治療(必要なときだけ飲む)や定期的な胃カメラによるチェックを行うことが大切です。
現時点では、PPIとタケキャブ(P-CAB)のどちらがよりリスクが高いかについて、明確な結論は出ていません。どちらも強力な胃酸抑制剤であるため、必要なときに、適切な期間で使用することが重要です。
症状が戻る場合は無理にやめず、症状のあるときだけ服用する「オンデマンド治療」が有効です。また、漢方薬や消化管運動改善薬など、別の治療法に切り替える方法もあります。主治医と相談のうえ、無理なく続けられる治療法を選びましょう。
多くの場合、PPIやタケキャブでできるポリープ(特に胃底腺ポリープ)は良性であり、がん化する可能性は低いとされています。ただし、変化を見逃さないためにも、定期的な内視鏡検査をおすすめします。
特に以下のような方は、毎年の胃内視鏡検査をおすすめします:
  • ピロリ菌を除菌したことがある
  • 長期間PPIやタケキャブを服用している
  • 胃の萎縮や慢性胃炎を指摘された
胃がんの早期発見のため、定期的な検査が重要です。
経鼻内視鏡でも胃の観察は十分に可能です。ただし、2024年のアンケート調査では、約半数の方が「つらかった」と回答しており、必ずしも全員にとって楽な検査とは限りません。鼻からか口からかよりも、継続して検査を受けられる方法を選ぶことが大切です。つらいと感じる場合は、鎮静剤を使った検査もご検討ください。

経鼻内視鏡は辛くないの真実
【作成・監修】
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック 院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医)
【参考文献】
Cheung KS, et al. Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study. Gut. 2018;67(1):28–35.
https://gut.bmj.com/content/67/1/28

Arai J, et al. Association of long-term proton pump inhibitor use with gastric cancer risk after Helicobacter pylori eradication: a nationwide claims-based cohort study in Japan. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;22(5):1111–1120.e4.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1542356524001654

日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会編. 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2021(改訂第3版). 南江堂.

オリンパス株式会社. 胃カメラ検査に関する意識調査2024.
https://www.olympus.co.jp/csr/social/survey/2024/