大腸ポリープを切除することで、大腸がんを予防できることを知っていますか?
こんにちは、つくばの内視鏡クリニック、辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック院長の森田です。
近年、日本で増え続ける大腸がんは、早期発見・早期治療が何よりも重要です。
大腸がんは男女ともに罹患数・死亡数が上位に位置する深刻な疾患です。
当院では、大腸がん予防の究極目標として「大腸ポリープゼロ」という状態を目指しています。
今回は、この大腸ポリープゼロの状態がなぜあなたの健康を守る鍵となるのか、そして当院がどのようにこの目標に取り組んでいるのかを、最新の科学的知見を交えて解説します。
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目次
1. 大腸内視鏡検査は大腸がん予防
大腸がんは、主に良性の大腸ポリープが時間をかけて大きくなり、悪性化することで発生します。
この「ポリープからがんへ」というメカニズムは、大腸がん予防を考える上で非常に重要です。
この理論を、大規模な科学的データで世界で初めて明確に証明し、大腸内視鏡検査によって大腸がんを予防できることを証明したのが、米国の「NPS(National Polyp Study:ナショナル・ポリープ・スタディ)」です。
これは、1980年代に米国で開始された、非常に大規模な質の高い臨床研究です。
この研究では、大腸内視鏡検査で腺腫性大腸ポリープが見つかった患者さんを対象に、ポリープを切除した方と、一般的な住民での大腸がん死亡リスクを比較しました。
大腸ポリープ(腺腫)を内視鏡で切除したグループでは、大腸がんの発生率が約53%も減少したのです。
黒い線が一般的な住民の大腸がんによる死亡で、青い線がこの研究で大腸ポリープを切除した人たちの大腸がんによる死亡です。
この結果が意味するところは、大腸内視鏡検査を行うことで、大腸がんを予防することができるということです。
日本の大腸がん検診は便潜血検査を意味しますが、これは早期大腸がんを見つけるための対策です。
これに対して、ポリープを積極的に切除する方針は、大腸がんになること自体を防ぐという対策です。
現在、大腸ポリープが見つかれば積極的に切除されるのが当然となっていますが、これはこの研究がなければ確立されなかった常識なのです。
この強力なエビデンスが、世界中の大腸内視鏡検査の普及に火をつけ、大腸がん予防医療の基礎を築きました。
結果として、アメリカを含む多くの先進国では大腸内視鏡検査が住民検診の一つとして組み込まれています。
残念ながら日本では、大腸内視鏡検査が住民検診に入っていないため、大腸がんの発生自体を予防するには、積極的に医療機関へ相談してもらう必要があります。
2. 大腸ポリープを完全切除する価値
NPSで大腸ポリープ切除の有効性が明確に示された後、医療界ではさらに踏み込んだ疑問が生まれました。
「大腸ポリープを徹底的に除去したら、どこまで大腸がん予防が可能なのか?」「その後の大腸内視鏡検査はどれくらいの頻度で受けるべきなのか?」
ここで登場したのが、「クリーンコロン(Clean Colon)」という概念です。
これは大腸ポリープがゼロの状態です。
2-1. 大腸ポリープゼロ達成の驚くべき効果
この「大腸ポリープゼロ」の重要性を具体的に示したのが、日本で行われた大規模研究「JPS(Japan Polyp Study:ジャパン・ポリープ・スタディ)」です。
これは、大腸ポリープ切除後の大腸がん予防とフォローアップに関する、世界でも有数の質の高い臨床研究です。
この研究では、「大腸ポリープゼロ(クリーンコロン)」を達成した患者さんでは、大腸がんの発生率が極めて低く抑えられることが示されました。
結果として、1895人を6.1年間のフォローアップして、4人の大腸がんの方に大腸がんが発生しました。
これは、86%の大腸がん発生を防げたことになります。(大腸内視鏡検査は複数回行われています)
この成果は、大腸がん予防における「徹底的なポリープ切除」と「大腸ポリープゼロの確立」の重要性を、日本人を対象としたデータで強力に裏付けるものです。
2-2. ポリープゼロの状態の達成方法
一方で、この研究では、厳密に大腸ポリープゼロを目指す手法がとられています。
実は、本研究では最初に2回の大腸内視鏡検査を行い、ポリープがゼロになったことを確認しています。
実際には、1年後に行われた2回目の検査で、大腸がんを指摘されている方が700人に1人程度います。
この大腸内視鏡検査後の早期大腸がんは、見落としや、ごく短期間での急速な進行などが原因と考えられています。
つまり、見落としなく大腸ポリープゼロの状態「クリーンコロン」を達成するのは、1度の内視鏡検査では難しい可能性があるということです。
いかに厳重な検査体制を敷いても、大腸がん予防に100%は存在しないという現実、そしてさらなる高精度検査の必要性を示唆しています。
したがって、便潜血検査陽性、血便、便秘、腹痛などの大腸がんを疑う症状があった場合、たとえ昨年大腸内視鏡検査を行っていたとしても、少なくとも2回は大腸内視鏡検査を行い、大腸ポリープゼロの状態であることを確認するのをおすすめしています。
昨年検査したから大丈夫だと思われる方もいらっしゃるし、かかりつけの先生からアドバイスされることもあるかもしれませんが、この研究では、本当に大腸ポリープがゼロになり、大腸がん予防が最大限になされる状態になるには、一度の検査では足りない可能性があることも示唆されているため、症状によっては、再度検査を行うことをおすすめすることもあります。
3. 質の高い無痛大腸内視鏡検査で大腸ポリープゼロを目指す
私たち辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニックは、つくばおよび土浦、牛久などの茨城県南地域の皆様の大腸がん予防に全力を尽くしています。
当院が「大腸ポリープゼロ」の達成と維持を究極の目標とする理由は、大腸がんへの不安やリスクを最小限に抑え、健やかな生活を送っていただくためです。
そのために、当院では以下の点に力を入れています。
3-1. 大腸ポリープの徹底検出
当院には、経験豊富な内視鏡専門医が在籍しています。
また、最新のAI補助診断システムを導入しており、AIが病変候補をリアルタイムで提示することで、医師の目とAIの目の両方で、大腸ポリープの見落としを極限まで減らすなど、早期発見の精度向上に努めています。
AIに頼る必要がないという意見もあると私も認識していますが、先程見てきたように、室の高い臨床研究レベルであっても、大腸がんの見落としは発生するため、プライドは捨てて、使えるものは何でも使いたいというのが私の思いです。
【参考】大腸内視鏡検査でのAIの価値について
3-2. その場で大腸ポリープ切除
一般的に切除対象となる大腸ポリープの発見率は30-50%程度とされています。
ポリープ発見後にもう一度検査となると、下剤内服などが大変で足が遠のいてしまう可能性もあります。
当院では、見つかった大腸ポリープをその場で日帰り切除することで、極力内視鏡検査の回数を減らすようにしています。
また、さらに利便性を高めるために、便利なオンライン診療を行っており、切除後のポリープの病理検査結果のご説明に際して、来院せずに済むように工夫しております。
3-3. 患者さんに寄り添う無痛内視鏡
「大腸ポリープゼロ」を維持し、大腸がん予防を継続するためには、定期的な大腸内視鏡検査が不可欠です。
しかし、検査に強い苦痛を感じると、次の受診をためらってしまうことがあります。
当院では、患者さんに安心して検査を受けていただけるよう、鎮静剤の使用や経験豊富な医師による丁寧な挿入技術で、「無痛内視鏡(辛くない大腸内視鏡検査)」を追求しています。
また、そもそも大腸を観察するために、空気で腸を膨らませて観察するため、良い観察のためにはお腹がどうしてもはってしまうものです。
鎮静剤を用いることで、こういった観察についての苦痛がなくなり、隅々まで観察できるようになります。
つまり、無痛内視鏡検査を行うことは、苦痛を減らすだけでなく、大腸ポリープゼロの状態を作り、維持するのにも役立つ可能性が高いため、大腸がん予防に有用であると我々は考えています。
【参考】つくば市の内視鏡クリニックの当院が大腸内視鏡検査おすすめクリニックに選ばれました
まとめ
大腸ポリープを切除することで、大腸がんを減らすことができます。
また、大腸ポリープゼロの状態、すなわちクリーンコロンを達成することで、大腸がんのリスクを大幅に軽減できます。
一方で、クリーンコロンを達成することは、現実的に難しいため、その対策が必要です。
当院では、クリーンコロン達成のために、今まで述べてきたような、
・AIを用いた見逃し対策
・その場で日帰り大腸ポリープ切除
・利便性の高いオンライン診療・
・無痛内視鏡検査
などの対策で、大腸ポリープをすべて切除し、大腸がんの予防をすることを目指しています。
当院では、地域の皆様が安心して大腸がん予防に取り組めるよう、最新の技術と患者さんに寄り添った医療を提供しています。
苦痛の少ない大腸内視鏡検査を行うことで、定期的な大腸内視鏡検査によるクリーンコロンを通じて、健康的で安心な未来を共に築いていきましょう。
当院には、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県外も含めて広い地域から多くの患者様が来院されています。
【作成・監修】
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック 院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医)
よくある質問
Q1. 大腸ポリープは、良性なのに、なぜ切除する必要があるのですか?
大腸がんの多くは、良性の大腸ポリープが時間をかけて大きくなり、悪性化することで発生するためです 。ポリープの段階で切除することが、大腸がんそのものの発生を防ぐ「予防」に繋がります 。米国の臨床研究(NPS)では、ポリープを切除したグループは、大腸がんによる死亡率が約53%減少したことが示されています 。
Q2. 「クリーンコロン」とは何ですか?達成すると、どのくらいがんのリスクが減りますか?
「クリーンコロン」とは、大腸ポリープが一つもない、ゼロの状態を指します 。日本で行われた大規模研究(Japan Polyp Study)では、「クリーンコロン」を達成した患者さんたちの大腸がん発生率が、86%も抑えられたことが報告されています 。
Q3. 大腸内視鏡検査を1回受ければ、クリーンコロンを達成できますか?
1回の検査で達成するのは難しい可能性があります 。高い精度で行われた臨床研究ですら、見落としなどにより、1年後に大腸がんが見つかるケースがあるためです 。そのため、特に血便などの症状があるや便潜血検査陽性であった場合は、昨年検査を受けていたとしても、少なくとも2回は大腸内視鏡検査を行い、「クリーンコロン」であることを確認することをお勧めしています 。
Q4. 検査は苦しいのでしょうか?
当院では、患者さんに安心して検査を受けていただけるよう、鎮静剤を使用した「無痛内視鏡」を追求しています 。苦痛がなくなると、大腸の隅々までしっかりと観察できるようになり、ポリープの見落としを減らすことにも繋がるため、大腸がん予防の観点からも有用です 。大腸内視鏡検査へのご不安に答える記事も作成していますのでご参照ください。
【参考】大腸内視鏡検査5つの不安につくばの内視鏡専門医が答えます
【参考】つくば市の内視鏡クリニックの当院が大腸内視鏡検査おすすめクリニックに選ばれました
Q5. 検査でポリープが見つかった場合、また後日に処置が必要ですか?
いいえ、当院では見つかった大腸ポリープをその場で切除します 。これにより、下剤を飲むなど大変な思いをする検査の回数を、極力減らすようにしています 。また、切除したポリープの結果説明は、来院不要のオンライン診療で行うことも可能です 。一方で、ポリープの大きさや個数によっては、一度の検査ですべて切除できないことがあるのでご了承ください。
Q6. ポリープの見落としを防ぐために、どのような工夫をしていますか?
経験豊富な内視鏡専門医が検査を行うことに加え、最新のAI補助診断(CADe)システムを導入しています 。医師の目とAIの目の両方で確認することで、ポリープの見落としを極限まで減らすよう努めています 。
参考文献
NPS長期予後解析:Zauber, A. G., Winawer, S. J., O’Brien, M. J., Lansdorp-Vogelaar, I., van Ballegooijen, J. L., van Oortmarssen, G. J., & Mandel, J. S. (2012). Colonoscopic polypectomy and long-term prevention of colorectal-cancer deaths. The New England Journal of Medicine, 366(16), 1477-1486.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1100370
Sano, Y., Hotta, K., Matsuda, T., et al. (2023). Endoscopic Removal of Premalignant Lesions Reduces Long-Term Colorectal Cancer Risk: Results From the Japan Polyp Study. Clinical Gastroenterology and Hepatology, 22(3), 542-551.e3.
https://doi.org/10.1016/j.cgh.2023.07.021
JPSのベースライン:
Sano Y, Fujii T, Matsuda T, Oda Y, Kudo S, Igarashi M, Iishi H. (2004). Study design and patient recruitment for the Japan Polyp Study. Dovepress
https://www.dovepress.com/study-design-and-patient-recruitment-for-the-japan-polyp-study-peer-reviewed-fulltext-article-OAJCT