
「おむつを替えたら、血が混じっていた」
そのとき、どれほど心臓が止まりそうになるか。子どもを持つ保護者の方なら、その恐怖は想像に難くないと思います。
子どもの血便は、大人の血便とは原因が根本的に異なります。年齢によって考えられる疾患がまったく違うため、「大人と同じ感覚」で判断してしまうと、重大な見落としにつながることがあります。新生児期・乳幼児期・学童期それぞれで、出血の背景にある病態は大きく変わるのです。
消化器外科・消化器内視鏡を専門とする立場から、子どもの血便について年齢別に整理し、緊急受診が必要なケースの見極め方を分かりやすくお伝えします。保護者の方がいざというときに冷静に判断できるよう、ぜひ最後までお読みください。
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科
当院では成人の消化器・肛門疾患を専門に診療しています。ご自身や成人のご家族に血便の症状がある場合は、お気軽にご相談ください。お子さまの血便については、かかりつけの小児科・小児外科へのご相談をお勧めします。
成人の血便外来について見る目次
血便の色と出血部位の関係…まず知っておくべき基本
血便と一口に言っても、その色や性状はさまざまです。
一般的に、出血部位が上部消化管(胃・十二指腸)に近いほど便は黒くなり、下部消化管(大腸・肛門)に近いほど鮮やかな赤色になります。これは、血液が消化管を通過する時間が長いほど、消化・酸化されて黒色に変化するためです。
子どもの血便を評価するうえで、この「色による出血部位の推定」は非常に重要な手がかりになります。
- 黒色タール便…胃・十二指腸からの出血を示唆
- 小豆色(暗赤色)の便…小腸からの出血を示唆
- イチゴジャム様の便・鮮血便…大腸から肛門にかけての出血を示唆
ただし、子どもの場合はこの原則が当てはまらないこともあります。腸の動きが速い乳幼児では、上部消化管の出血でも鮮血に近い色で排泄されることがあるため、色だけで判断するのは危険です。
血便の色・量・性状・お子さんの全身状態(顔色、活気、嘔吐の有無など)を総合的に見て判断することが大切です。

新生児期(生後0〜1か月)に考えられる疾患
新生児の血便は、特別な注意が必要です。
生後間もない時期に見られる血便には、大きく分けて「本当の出血」と「出血ではないもの」があります。この区別が、最初の重要なステップになります。
新生児メレナ〜ビタミンK欠乏による出血
生後2〜4日頃に吐血とタール便(黒色便)を認めることがあります。
これは「新生児メレナ」と呼ばれ、多くの場合はビタミンK欠乏が原因です。ビタミンKは血液を固める凝固因子の産生に不可欠ですが、胎盤を通りにくく、新生児早期は腸内細菌からの補給も少ないため、欠乏状態になりやすい特徴があります。凝固因子が減少することで出血しやすい状態となり、消化管出血が起こります。
現在は出生直後にビタミンKを投与することで予防されていますが、まれに発症することがあります。重症例では輸血を要することもあるため、速やかな受診が必要です。
新生児仮性メレナ〜治療不要の「偽の血便」
一方、「新生児仮性メレナ」という状態もあります。これは、赤ちゃんが分娩の際に飲み込んだ母体の血液を便中に排泄するもので、赤ちゃん自身の出血ではありません。特に治療の必要がない状態です。
見た目は血便と区別がつきにくいため、医療機関での確認が安心です。
壊死性腸炎・腸回転異常症
新生児期の血便の原因として、壊死性腸炎や腸回転異常症(中腸軸捻転)も考えられます。これらは緊急手術を要する場合もある重篤な疾患です。腹部膨満、嘔吐、哺乳不良などを伴う場合は、ただちに救急受診が必要です。
乳幼児期(生後1か月〜5歳頃)に考えられる疾患
乳幼児期になると、血便の原因はぐっと多様になります。
「昨日まで元気だったのに、急に機嫌が悪くなって泣き止まない。おむつを見たら血が…」という経験をされた保護者の方もいらっしゃるかもしれません。この年齢帯では、緊急性の高い疾患が含まれているため、特に注意が必要です。
腸重積症〜乳幼児期の代表的な緊急疾患
腸重積症は、腸が腸の中に入り込んでしまう疾患です。
生後3か月〜2歳頃に多く見られます。突然の激しい腹痛(間欠的に泣き止まない)、嘔吐、そしてイチゴジャム様の血便が典型的な三徴です。ただし、初期にはこれらが揃わないことも多く、機嫌が悪い・ぐったりしているだけのこともあります。
早期に発見できれば、高圧浣腸(注腸整復)で治療できますが、遅れると腸壊死を起こし手術が必要になります。「いつもと違う泣き方」をしている乳幼児に血便が見られたら、迷わず受診してください。
メッケル憩室〜見落とされやすい先天性疾患
メッケル憩室は、小腸の一部が袋状に突出する先天性の疾患です。多くは無症状ですが、憩室内に胃粘膜が迷入すると潰瘍を形成し、大量の鮮血便を引き起こすことがあります。痛みを伴わない大量出血が特徴で、2歳以下に多く見られます。
アレルギー性紫斑病(アナフィラクトイド紫斑病)
幼児期から学童期に好発する疾患です。下腿・大腿・臀部などに点状出血班や蕁麻疹様の皮膚症状が現れ、腹痛・嘔吐・血便などの腹部症状、膝や足関節の関節症状、血尿・蛋白尿などの腎症状を特徴とします。細菌感染・ウイルス感染・アレルギーなどが原因として考えられていますが、真の原因はまだ解明されていません。腸重積症や腸穿孔などの合併症を起こした場合には手術の対象になることもあります。
細菌性腸炎・若年性ポリープ・痔裂
乳幼児期の血便の原因として、細菌性腸炎(カンピロバクター・サルモネラなど)も頻度が高いです。発熱・下痢・腹痛を伴うことが多く、便に血液や粘液が混じります。若年性ポリープは大腸に良性のポリープができる疾患で、痛みのない鮮血便が特徴です。また、便秘がちな子どもでは、硬い便が肛門を傷つける「痔裂(切れ痔)」も血便の原因になります。
ご自身の血便が気になる方へ
成人の血便は、大腸がんやポリープをはじめとする消化器疾患が関係する場合があります。つくば市の消化器・肛門外科専門医にご相談ください。
学童期(6歳〜15歳頃)に考えられる疾患

学童期になると、大人に近い疾患が増えてきます。
ただし、この年齢でも子どもに特有の疾患があります。「恥ずかしくて言えなかった」と後になって打ち明ける子どもも少なくありません。血便に気づいたら、子どもが話しやすい雰囲気をつくって、詳しく聞いてあげることが大切です。
潰瘍性大腸炎・クローン病〜指定難病として長期管理が必要
学童期以降に増えてくる疾患として、炎症性腸疾患(IBD)があります。
潰瘍性大腸炎は大腸に慢性的な炎症を引き起こす難治性疾患で、下痢・腹痛・血便・貧血・発熱・倦怠感などの症状が見られます。悪化(再燃)と軽快(寛解)を繰り返すのが特徴で、国の指定難病に定められています。寛解の状態が長く続くよう、薬剤や生活習慣の改善で症状をコントロールしていくことが治療の基本です。
クローン病は口から肛門までの消化器官に慢性的な炎症を引き起こす難治性疾患です。潰瘍性大腸炎と同様に下痢・腹痛・発熱・貧血・血便などの症状が見られ、症状の悪化と軽快を繰り返します。こちらも国の指定難病に定められており、症状をコントロールしながら寛解を維持する治療が求められます。
胃・十二指腸潰瘍
学童期でも胃・十二指腸潰瘍は起こります。ストレスやピロリ菌感染などが背景にあることが多く、症状が進行すると患部から出血し、黒っぽい便(タール便)が出ることがあります。腹痛・嘔吐・食欲不振を伴う場合は、消化管出血を疑って受診が必要です。
若年性ポリープ・大腸ポリープ
学童期にも若年性ポリープは見られます。大腸粘膜の一部がいぼのように突出する疾患で、初期段階では症状が現れにくく、痛みのない鮮血便が特徴です。大腸ポリープの中にはがん化するものもあるため、早期発見・早期切除が大切です。

緊急受診が必要なケースの見極め方
これだけは、必ず覚えておいてください。
以下のいずれかに当てはまる場合は、迷わずすぐに救急受診または緊急外来を受診してください。「様子を見よう」という判断が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
今すぐ受診すべきサイン
- 大量の出血…便器が真っ赤になるほどの出血、または血の塊が出る
- 顔色が青白い・ぐったりしている…ショック状態の可能性
- 激しい腹痛を伴う…特に間欠的に泣き止まない乳幼児
- 嘔吐を繰り返している…腸閉塞や腸重積の可能性
- 腹部が硬く膨れている…腸管の重篤な病変の可能性
- 高熱を伴う…細菌性腸炎や炎症性疾患の可能性
- 新生児・乳児の血便…この年齢帯はすべて緊急性が高い
数日以内に受診すべきサイン
- 少量の血便が続いている(1〜2日以上)
- 便に血が混じっているが、元気はある
- 排便後のトイレットペーパーに血が付く(繰り返す場合)
- 便秘や下痢が長引いている
- 体重が増えない・食欲がない状態が続く
「元気そうだから大丈夫」と判断するのは危険です。
子どもは症状を言葉で正確に伝えられないことが多く、見た目が元気でも内部で重篤な病変が進行していることがあります。血便を見たら、まず医療機関に相談することを強くお勧めします。

保護者が知っておくべき受診前の確認ポイント
受診の際、医師に正確な情報を伝えることが診断の助けになります。
「あのとき、もっとちゃんと観察しておけばよかった」と後悔しないよう、血便に気づいたときに確認しておきたいポイントをまとめます。
医師に伝えるべき情報
- 血便の色…鮮紅色・暗赤色・黒色・イチゴジャム様など
- 血便の量…少量か大量か、便全体に混じっているか表面だけか
- いつから…初めて気づいた時間・日時
- 排便の状態…下痢か便秘か、排便の頻度
- 伴う症状…腹痛・嘔吐・発熱・食欲不振・活気の低下など
- 最近の食事内容…赤いジュースやトマト、イチゴなど食品による着色の可能性
- 最近の感染症歴…風邪・胃腸炎など
- 家族歴…大腸ポリープ・炎症性腸疾患などの家族歴
可能であれば、血便の写真をスマートフォンで撮影しておくと、医師が状態を把握しやすくなります。受診時に見せることで、より正確な診断につながります。
食品や薬による「偽の血便」にも注意
トマト・イチゴ・スイカ・赤いジュースなどを大量に食べた後、便が赤く見えることがあります。また、鉄剤の服用中は便が黒くなることがあります。これらは本当の血便ではありませんが、見た目では区別がつきにくいため、直近の食事内容や服用薬を医師に伝えることが大切です。
まとめ〜子どもの血便は「年齢別の視点」で考える
子どもの血便は、年齢によって原因がまったく異なります。
新生児期はビタミンK欠乏による新生児メレナや壊死性腸炎、乳幼児期は腸重積症やメッケル憩室、学童期は炎症性腸疾患や若年性ポリープなど、それぞれの年齢帯に特有の疾患があります。大人と同じ感覚で「痔かな」と判断してしまうのは、子どもの血便においては危険な思い込みです。
大量出血・ぐったり・激しい腹痛・嘔吐を伴う場合は、今すぐ救急受診を。少量でも繰り返す血便は、数日以内に専門医を受診することをお勧めします。
血便は「速やかな治療を必要とすることもある症状」です。お子さんの血便に気づいたとき、この記事が冷静な判断の一助になれば幸いです。
つくば駅から徒歩5分の辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニックでは、血便症状に対する緊急外来を提供しています。必要に応じて当日の大腸内視鏡検査にも対応しており、症状や緊急度に合わせて適切かつ柔軟に対応します。女性医師による診察・検査も実施しており、女性の患者さんも安心してご受診いただけます。辻仲病院グループの豊富な診療実績を活かし、痛みや負担を抑えた検査を心がけています。24時間WEB予約・LINE予約にも対応していますので、まずはお気軽にご相談ください。
▼血便でお困りの方はこちら
茨城県つくば市竹園
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科
成人の消化器・肛門疾患を専門に診療しています
月〜土 9:00〜11:30 / 14:00〜16:30(日曜定休)
著者情報
院長
森田 洋平
Youhei Morita

略歴
2007年
杏林大学卒業、東京北社会保険病院で初期臨床研修、つくばメディカルセンター病院で外科研修、埼玉医科大学国際医療センターで消化器外科フェロー。その後、消化器内視鏡、肛門外科を専門とし辻仲病院柏の葉で勤務。勤務の傍ら、聖路加国際大学公衆衛生大学院で内視鏡の検査情報を効率的に伝えるための研究を行いMaster of Public Health(MPH)を取得。
資格
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- Master of Public Health (MPH)
所属学会
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本消化器内視鏡学会