しかし、専門医の立場からお伝えしたいのは、「便潜血陽性は、今しか見つけられないかもしれない小さなサイン」であり、「精密検査を受けなかったことによる後悔」は、決して小さくはないということです。
重要なのは大腸がんは早期で発見すれば治る病気であるということです。また、精密検査である大腸内視鏡検査は安全性が確立された検査であり、当院のように鎮静剤を用いる、下剤に対しての適切な配慮を行うなどすれば、苦痛を少なく検査することも可能です。
この記事では、便潜血陽性を放置することのリスク、早期に内視鏡検査を受けることのメリット、そしてよくある誤解について、最新の知見と臨床現場の実感をもとにわかりやすく解説します。

目次
1. 便潜血検査「陽性」は、大腸がんの”見逃してはいけないサイン”
便潜血検査(FIT)は、便に混じった微量な血液を検出するスクリーニング検査で、大腸がん検診に広く用いられています。
この検査は、がんやポリープそのものを見つける検査ではなく、「がんになる過程で一時的に起こる出血」をとらえることで、がんを早期に疑う手がかりを得るという性質を持ちます。
日本の「大腸がん検診マニュアル2021年版」では、大腸がんが発生して、便潜血検査が陽性となりうる状態になってから症状がでるぐらいの進行がんに至るまでの期間を約7年と想定しています。
この“見つけるチャンスがある7年間”に、年1回の便潜血検査を繰り返すことで、どこかのタイミングで陽性になる可能性が高いという制度設計になっています。
つまり、便潜血検査は、大腸がんがあるから必ず陽性になるものではなく、7年間で一度ぐらいは陽性である可能性がたかいという程度のものとなっています。
また、これだけでも不安であるため、通常1回の検査で2回分の便を検査しています。つまり、2回とも陽性になるから正しいということではなく、検査の精度上2回やって1度でも引っかかってほしいという検査になります。
これを反映して、日本以外の多くの先進国では、50歳のときに(国によっては60歳のときも)大腸内視鏡検査を行うことが大腸がん検診として組み入れられています。
いずれにしても、一度でも便潜血検査で「陽性」となった場合、それは“7年間の貴重な発見機会を捉えた”可能性が高く、極めて重要な警告サインと捉える必要があります。
次に同じような機会が巡ってくるという蓋然性はありません。便潜血検査が陽性となった、その段階で精密検査をお受けいただくことを強くお勧めします。次に見つかるときには進行がんになっているリスクが高まるからです。

しばしば遭遇する事態なのですが、便潜血陽性だけれど、痔、便秘、体調などが原因だと思うからもう一度便潜血検査をして陽性だったら大腸内視鏡検査をすることにしたいと言われることがあります。
こう考えてしまうお気持ちは十分理解できますが、先ほどまでご説明したように、実はこういった一度なら大丈夫という考え方は、医学的には推奨されない考えです。便潜血検査は、そこまで確定的に大腸がんがあるかどうかを判別できる手法ではないのです。
また、痔があると思っている人と、痔がないと思っている人の中で、便潜血検査が陽性の場合では、大腸がんや大腸ポリープの発見割合について差がないという報告もあります。
複数の疫学研究でも、便潜血陽性者のうち約3〜5%が実際に大腸がんであることが確認されており、「陽性」の意味を軽視することはできません。
そして、進行しないと症状が出づらい以上、こういったチャンスを利用して、早期の大腸がんを発見していくことが重要です。
もしも、自についても一緒に診察を希望という場合は、当院のような肛門科があるクリニックでご相談いただくのをお勧めします。
いぼ痔や切れ痔の診断を大腸内視鏡検査だけで行うことはきず、痔の診断には肛門科による肛門鏡診察が必須だからです。
2. 精密検査を受けないと、大腸がん死亡リスクは約4倍に
大規模な追跡調査の結果、便潜血陽性となったにもかかわらず精密検査(大腸内視鏡検査など)を受けなかった人は、検査を受けた人に比べて、大腸がんが見つかったときには、大腸がんによる死亡リスクが約4倍高まることが明らかになっています(松田一夫)。
これは約15,000人を対象とした日本の前向き研究によるもので、便潜血検査陽性後に精密検査を受けなかった群では、大腸がんがあった場合には、明らかに進行がんとして発見される割合が高く、予後も不良であるという結果が示されました。
陽性のサインを見逃し、数年後に症状が出てから大腸がんと診断された場合、その時にはすでに進行がんになっていることが少なくありません。つまり、今、精密検査を受けるかどうかで将来の命のリスクが大きく変わるのです。
実際、これは多くの内視鏡医が経験することだと思いますが、便潜血検査陽性だったけれど、放置していて、排便のたびに出血するようになって来院して、進行大腸がんにより大腸が閉塞しかかっていたため、緊急で手術を行うというケースはしばしば遭遇します。
次に述べるように、早期発見できれば、大腸がんのほとんどは治る病気です。
3. 早期発見された大腸がんは98%以上が治る
「がん=死」というイメージを持つ方も少なくありません。しかし、大腸がんは早期に発見されて適切に治療すれば、98%以上が完治することが可能です。
特に、粘膜内がん(ステージ0)や粘膜下層までのがん(ステージI)は、内視鏡での切除のみで完治が目指せるケースも多く、身体への負担も最小限です。
さらに、近年の統計では、早期に発見された大腸がん患者の年齢調整死亡率は、一般の人とほぼ変わらないというデータもあります。
簡単に言うと、早期に見つかった大腸がんの方の寿命は、がんになっていない方とほとんど変わらないということです。
4. 大腸がんは無症状のまま進行する病気
大腸がんは、かなり進行するまで自覚症状が現れにくい病気です。「お腹が痛くないから大丈夫」「便も普通だし心配ない」と考えている方こそ、注意が必要です。
大腸がん検診後の精密検査を行わない一番の理由はこれです。便潜血検査が陽性でない人の中にも大腸がんの方がいるぐらいです。
症状がない今こそが、見つけて治す最大のチャンスです。
5. ポリープ切除で将来の大腸がんを予防できる
便潜血検査陽性で大腸内視鏡検査を行った場合、30-50%程度の確率で大腸ポリープが見つかります。
大腸内視鏡検査の大きな利点の一つは、大腸ポリープをその場で発見し、即座に切除できることにあります。この点が、単なる画像診断やスクリーニング検査と大きく異なるポイントです。
Japan Polyp Studyという日本で行われた大規模研究によると、大腸ポリープを完全に切除することで将来の大腸がんリスクが86%減らせることが示されました(Sano)。
つまり、内視鏡検査は「今あるがんを見つけるためのもの」であると同時に、「未来のがんを未然に防ぐ、数少ない医学的手段」でもあるのです。
したがって、せっかく大腸内視鏡検査を行うのであれば、その場でポリープ切除を行う施設で行うのが肝要です。
当院では、少しでも多く、切除対象となる大腸ポリープを見つけるため、AIを用いた検査を行っています。
6. 「がんならがんでいい」という誤解に注意
「大腸がんなら、なってから治療すればいい」「いずれ死ぬんだから、放っておけばいい」と言われる方もたくさんいらっしゃいます。
しかし、大腸がんは突然死することは少ない分、発見が遅れると生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。たとえば、
- 緊急での手術が必要になる
- 根治手術ができず、抗がん剤治療が続く
といった形で、本人の負担だけでなく、家族や仕事への影響も避けられません。
大腸がんはどの段階であっても治療による効果が見込める疾患です。早ければ早いほど治療効果が高くなります。
その反面、進行大腸がんにたいしては、なんの症状もなく「大腸がんになったらなったで死ぬだけだ」という考えの通りの経過をたどることはほとんどありません。
がんの経過は年単位のものです。いずれ治療が必要になるのであれば、早期に発見して、根治性の高い治療を行うことが重要となります。
まとめ
一方で、早期に発見された大腸がんは98%以上が完治可能であり、内視鏡でのポリープ切除により将来のがんリスクを86%減らすことができます。
大腸がんは無症状のまま進行するため、症状がない今こそが治療の最適なタイミングです。便潜血陽性の結果を軽視せず、専門医による精密検査を早期に受けることを強くお勧めします。
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニックでは、便潜血陽性となった方に対し、最新AIを搭載した内視鏡機器を使用した、精度の高い検査を提供しています。鎮静剤を用いた苦痛の少ない内視鏡検査も行っており、大腸ポリープの日帰り切除にも対応しています。
つくば市民のみならず、どこの自治体であっても大腸がん検診、便潜血検査陽性であった場合は当院で大腸内視鏡検査を行うことができます。つくば駅からも近く、土浦市・牛久市・守谷市・阿見町・常総市・石岡市・龍ケ崎市・つくばみらい市などの近隣市町村からも多くの方が来院されています。
「便潜血検査・大腸がん検診陽性」と言われた方、ぜひ一度ご相談ください。
よくある質問
いいえ、「陽性=がん」ではありませんが、がんやポリープの可能性を否定できないため、必ず精密検査が必要です。
便潜血検査で陽性と判定された方のうち、約3〜5%に大腸がんが見つかるという報告があります。
つまり、多くの場合は大腸がんではありませんが、症状の出るような大腸がんは進行がんである可能性があるため、症状が出る前に大腸内視鏡検査をすることが重要です。
検査法にはいくつかの選択肢がありますが、最も推奨されるのは大腸内視鏡検査(大腸カメラ)です。
便潜血検査が陽性になった場合、精密検査として以下のような方法があります:
検査方法 | 特徴 |
---|---|
大腸内視鏡検査(大腸カメラ) | 直視での観察が可能。異常があればその場で生検やポリープ切除もでき、治療も同時に可能。 |
大腸CT検査(CTコロノグラフィー) | CTで腸の中を立体的に再構成する検査。病変の発見精度は内視鏡よりやや劣る。ポリープが見つかれば、結局内視鏡が必要。 |
カプセル内視鏡 | 飲み込んだカプセル型カメラが自動で撮影。負担が少ないが、病変の見落としや位置特定の限界あり。ポリープ等が見つかれば再検査が必要。 |
重要なポイントとしては、どの方法であっても下剤の内服が必要であることです。
大腸内視鏡検査は精度が高い上に、大腸ポリープが見つかる可能性が30-50%程度とされることから、下剤の内服を含めて一度の検査で終わる可能性が高いため、標準的な検査として大腸内視鏡検査をおすすめします。
当院では、鎮静剤を用いて”眠っている間に終わる”ような検査も可能です。
「検査が苦しい」と思って躊躇している方は非常に多いですが、当院では、不安を軽減するために鎮静剤を使用した無痛に近い大腸内視鏡検査を提供しています。検査後の説明も丁寧に行い、当日中に日帰りで帰宅いただけます。
また、下剤などの検査前の準備についてご不安な方についても、複数の下剤の種類や8ヶ所のトイレ完備の院内下剤などで対応いたします。
大腸内視鏡検査を受けるのが不安な方へ:
いいえ、「一度陽性が出たら、必ず精密検査へ」が基本です。
大腸がんやポリープは毎日必ず出血するとは限りません。
むしろ、毎日出血しないことが前提となって、2回法となっていたり、毎年検査する仕組みになっています。再検査に時間をかけてしまうと、進行がんになるリスクを高めることになりかねません。
世界中のガイドラインでも「陽性=精密検査」が基本です。
可能性はありますが、「痔があるから大丈夫」とは判断しないでください。
そもそもほとんどの人に痔があるため、痔があるから大腸がんが原因ではないと考えると、ほとんどの大腸がんのかたを見落としてしまいます。普段から血便があったとしても、大腸内視鏡検査を行うことをお勧めします。
実際に、「痔だと思って放置していたら、進行がんが見つかった」というケースは臨床でも珍しくありません。痔がある方こそ、大腸内視鏡検査で正確な診断を受けることが重要です。
内視鏡専門医が在籍し、鎮静対応・日帰りポリープ切除・AI搭載機器を使用している施設が理想です。
当院は、医師も多数在籍し、AIを活用した最新内視鏡機器と豊富な実績をもとに、「痛くない」「怖くない」「しっかり診てもらえる」大腸内視鏡検査を提供しています。
また、全国の医療メディアでも「茨城県でおすすめの大腸カメラ施設」として紹介されています。
検出の精度を高めるためです。
大腸の病変は毎回出血しているとは限りません。そのため、2回採便することで、「少なくとも1回は見逃さずに拾う」という設計になっています。
2回とも陽性でなくても、1回でも陽性なら精密検査が必要です。「1回だけだから大丈夫」という判断は、医学的には推奨されていません。
日本消化器がん検診学会(編)『大腸がん検診マニュアル 2021年改訂版』
https://www.jsgcs.or.jp/files/uploads/d_manualbook2021.pdf
松田一夫 大腸がん検診の重要性 日本健康増進財団
https://www.e-kenkou21.or.jp/images/outline/public/book-topics06.pdf
Sano, Y., Hotta, K., Matsuda, T., et al. (2023). Endoscopic Removal of Premalignant Lesions Reduces Long-Term Colorectal Cancer Risk: Results From the Japan Polyp Study. Clinical Gastroenterology and Hepatology, 22(3), 542-551.e3.
https://doi.org/10.1016/j.cgh.2023.07.021
国立がん研究センター がん情報サービス「部位別がんの5年相対生存率」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html