便潜血検査で「陽性」と告げられたとき、「どうせ痔だろうから大丈夫」と自己判断していませんか?
実際に当院でも、「痔があるから検査は受けなくていいですよね?」というご相談を頻繁にいただきます。
しかし、その誤った安心感が、あなたの命に関わる大腸がんの早期発見の機会を奪ってしまうかもしれません。
この記事では、便潜血検査の本来の意味と、痔があっても大腸内視鏡検査がなぜ必要なのかを、つくばの内視鏡専門医が最新データに基づき分かりやすく解説します。
目次
1. 便潜血検査は「出血を見つける検査」ではありません
「便に血が混じっているか」を調べるのが便潜血検査だと思っていませんか?実は、一般的な便潜血検査(FIT)の目的は、少し違います。
FITは、人間の血液成分(ヘモグロビン)に特異的に反応する検査です。肉などの食事の影響を受けずに、消化管からのごく微量の出血を検出できます。
しかし、その最大の目的は、「出血そのものを見つけること」ではありません。
FITは、統計学的に大腸がんを見つける確率が最も高くなるように設計された、非常に効率的なスクリーニング検査なのです。
特定の基準値を超える微量の血液を検知することで、大腸がんが隠れている可能性のある人を効率的に見つけ出す仕組みになっています。
最も効率よく大腸内視鏡検査を行うべき人を見つける設定がなされており、おおむね3-5%程度の大腸がんのリスクの方を拾い上げる制度です。
つまり、出血の有無を見るのが目的ではなく、「大腸がんを持っている可能性が高い人」をふるい分けるための検査だと理解してください。
便潜血検査で陽性が出たということは、「あなたは大腸がんのリスクがあるグループに属している可能性があります」という、大切なサインなのです。
2. 痔の有無で大腸がんの確率に違いがない
「痔があるから、便潜血が陽性になったんだろう」と自己判断し、精密検査を受けない方が少なくありません。
確かに痔からの出血で便潜血検査が陽性になることもありますが、それは決して精密検査が不要な理由にはなりません。
人間ドック学会誌(2020年発行)に発表された論文「便潜血陽性受診者の精密検査未実施要因の検討」では、この自己判断の危険性が示されています。
この研究によると、便潜血検査陽性を指摘された方のなかで、痔があると思っている方は、痔がないと思っている方よりも精密検査を受診しない傾向があることが示されています。
また、痔があると思っている人の中でも、痔がないと思っている方と同様の割合で大腸がんや大腸ポリープが見つかったことが報告されています。
下の図のグループAはご本人が痔核があると思っている方、グループBはご本人が痔核がないと思っている方です。
研究の質に限界があるため、明確に示しているとまでは言えないものの、このデータは、「痔があるから心配ない」という自己判断が、いかに誤った安心感を与え、大腸がんの早期発見の機会を奪っているかを示唆しています。
大腸がん検診の制度設計自体に、痔の方も入っているため、痔がある方も便潜血検査が陽性の場合は、大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。
便潜血検査の目的は、「陽性の原因が痔であると特定すること」ではありません。
最も重要なのは、その陽性反応が「大腸がんではないことを確認すること」なのです。
自己判断で精密検査を避けることは、文字通り「命取り」になりかねない、非常に危険な選択と言えるでしょう。
3. 精密検査、特に大腸内視鏡検査が命を守る第一歩
便潜血検査で陽性が出た場合、精密検査として大腸内視鏡検査を受けることを強く推奨します。
便潜血検査陽性を放置した場合に、大腸癌が将来見つかったときには死亡率が大きく跳ね上がります。
【参考】便潜血検査陽性で大腸内視鏡検査をしない場合に、将来大腸癌が見つかった場合の死亡率は4倍程度
大腸内視鏡検査は、肛門から細いスコープを挿入し、大腸の内部を直接観察する検査です。
この検査によって、大腸の粘膜の状態を詳細に確認することができ、大腸がんやポリープの有無などの異常を直接診断することができます。
大腸内視鏡検査の最大のメリットは、症状が出る前の早期大腸がんや、がん化する前のポリープを発見し、その場で切除できることです。
ポリープを切除することで、大腸がんの発生を予防できることになります。
これは、大腸がんによる死亡を予防する上で、最も確実かつ効果的な手段と言えるでしょう。
「痔があるから」という理由で精密検査を受けないことは、大腸がんを見逃すリスクを著しく高めます。
当院では苦痛の少ない内視鏡検査の工夫を行っております。
Googleの口コミでも『こんなに楽ならもっと早く検査にくればよかった』など多数ご評価いただいています。
【参考】つくばの内視鏡クリニックの当院が大腸内視鏡のお勧めで掲載されました。
痔の出血とは別に、がんやポリープが隠れている可能性は十分にあるのです。
4. 肛門疾患についてご不安な方へ
なお、大腸内視鏡検査は、大腸の内部を診る検査であるため、痔であるかどうか、またその治療の必要性などについては、正確な診断ができません。
痔の診断や治療の必要性の判断には、肛門の専門的な診察(肛門鏡などを用いた診察)が別途必要となります。
当院では、大腸内視鏡検査と合わせて肛門の診察も行い、患者様のお悩みに包括的に対応しています。
痔の症状もある方は、当院のような肛門科医師がいる医療機関でご相談いただくことをお勧めします。
【まとめ】便潜血陽性、そのサインを見逃さないで
- 「痔があるから便潜血陽性でも大丈夫」は、医学的に誤った認識です。自己判断は絶対に避けましょう。
- 便潜血検査の陽性反応は、痔の有無にかかわらず、大腸がんの可能性を否定するために精密検査が必要であるという、体からの重要なサインです。
- あなたの命を守るために、このサインを決して見過ごさず、専門医による内視鏡検査を受けることが、大腸がんの早期発見・早期治療への第一歩となります。
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニックでは、患者様が安心して検査を受けていただけるよう、様々な取り組みを行っています。
【当院の特長】
- AIを活用した最新の内視鏡機器:精度の高い画像診断をサポートし、微細な病変も見逃さないよう努めています。
- 苦痛の少ない内視鏡検査:経験豊富な専門医による鎮静剤を用いた「無痛内視鏡検査」を提供しており、安心して検査を受けていただけます。
- 専門的な肛門診察:大腸内視鏡検査と合わせて肛門疾患の専門的な診察も行っており、痔などのお悩みにも一貫して対応可能です。
つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県外からも多くの患者様にご来院いただいております。
便潜血検査で陽性が出た方はもちろん、大腸の健康にご不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。私たちは、皆様の大腸の健康を全力でサポートいたします。
よくある質問
Q1. 痔がある人は、便潜血検査で陽性になりやすいですか?A. はい、痔からの出血でも陽性になることはありますが、それをもって安心してはいけません。大腸がんやポリープでも出血するため、陽性になった場合は必ず大腸内視鏡検査を受けましょう。
Q2. 検査を受けずに放置すると、どんなリスクがありますか?
A. 大腸がんを早期に発見できず、進行してから見つかる恐れがあります。進行がんでは治療も大がかりになり、命に関わるリスクも高まります。
【参考】便潜血検査陽性で大腸内視鏡検査をしない場合に、将来大腸癌が見つかった場合の死亡率は4倍程度
Q3. 大腸内視鏡検査は痛いですか?
A. 当院では、無送気軸保持短縮法という負担の少ない大腸内視鏡挿入方と鎮静剤を使用した無痛内視鏡検査を行っており、多くの方が「思ったより楽だった」とおっしゃっています。
Q4. 大腸内視鏡検査は準備が大変と聞いていますが大丈夫ですか?
A. 一般的に大腸内視鏡検査を行う前に内服する下剤が大変という意見は多いです。当院では特に複数の下剤の種類の準備や院内での内服など多くの選択肢を提供しています。
➤大腸内視鏡検査の前処置・下剤を楽にするためのつくばの内視鏡クリニックの工夫
Q5. 内視鏡検査では痔も診てもらえますか?
A. 大腸内視鏡は大腸の内部を観察する検査であり、痔の診断には肛門鏡による検査が必要です。当院では両方の対応が可能です。
作成・監修
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック
院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医、MPH)
MPHは公衆衛生大学院卒を表す言葉で、こういった疫学データを臨床で実現させるスペシャリストの過程を終了したことを表します。
参考文献
小野 裕之, 大野 哲史, 石田 文代, 他. 便潜血陽性受診者の精密検査未実施要因の検討―人間ドック受診者における便潜血陽性者の大腸内視鏡検査受診状況と関連要因について―. 人間ドック. 2020, 35(1): 60-67.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/35/1/35_60/_pdf/-char/ja