「胃カメラ、受けた方がいいのは分かっているけど…」そんな風に思っていませんか?
この記事では、2025年6月に発表された23万人以上が参加した大規模研究で示された、無症状の方への胃がん検診的な胃カメラ検査の驚くべき効果と、その効果をさらに高め、あなた自身の「継続的な」安心に繋げるためのヒントを、専門医が解説します。
内容を読む前にお伝えしますが、私は内視鏡クリニックの院長であり、「内視鏡検査を通じて胃がんによる死亡リスクを減らしたい」と考えており、そのフィルターで本研究を解釈している点をお伝えします。
▶胃がん検診における胃カメラの位置づけを知りたい方はこちらをご参照ください。
1. 本研究の意義
今回注目するのは、中国で行われ、国際的な医学雑誌「Gastroenterology」に掲載された、非常に信頼性の高い「ランダム化比較試験(RCT)」の結果です。
これまで、日本や韓国から、胃がん検診をすると、胃がんによる死亡率がさがる可能性があることを、観察研究という研究手法で示した報告が多数なされました。
これは、胃がん検診をした方において、結果的に胃がんによる死亡率が減ったという相関関係を見るにとどまっていました。
本研究では、無症状の方に胃内視鏡検査をすることによって、胃がんや食道がんによる死亡リスクが減ったという強い因果関係を示したため、今まで類推していたことが、強い確度で証明されたという点で非常に価値の高い研究です。
なぜ中国の研究なのかと思われるかもしれませんが、日本ではすでに胃がん検診が実施されているため、倫理的な要件から、このような実験的な研究を行うことが倫理的に難しいため同様の研究を行うことはできません。
したがって、この研究は、今後の胃がん検診の価値のベースになる研究だと確信します。
2. 研究の手法
40歳から69歳の無症状の方23万人以上を対象に、一度の内視鏡検査が上部消化管がん(胃がん・食道がん)による死亡をどれだけ減らせるかについて7.5年間追跡しました。
胃がんの発症リスクで地域ごとにわけたランダム化比較試験(RCT)という質の高い研究手法で研究されています。
今回は胃がん発症リスクの高い地域の結果をお伝えします。
3. 研究の結果と解釈
この研究では、実際に内視鏡検査を受け、計画通りに指示に従った方々(Per-Protocol解析対象者)で、特に顕著な効果が見られました。
上部消化管がんのリスクが高い地域(高リスク地域)において、一度の内視鏡検査を受けたグループでは、受けなかったグループと比較して、7.5年間での上部消化管がんによる死亡リスクが43%も減少しました。(内視鏡群0.59% vs 対照群1.03%)。
内訳を見ると、食道がんによる死亡リスクは約50%減、胃がんによる死亡リスクは約36%減というおどろくべき結果でした。
この「一度の検査で死亡リスク43%減」という結果は、非常に大きなインパクトがあります。
これが日本国内で用いることができるかという点については慎重な議論が必要です。
まず、中国でも胃がんのリスクが高い地域での話であることや、ピロリ菌の除菌率が日本ほど高くない時期であったことなど、多くの違いがあることは確かです。
一方で、胃がん検診の観察研究では(今回の研究ほど質の高くない研究)、日本での観察研究でも30%程度、韓国の観察研究でも50%程度の胃がんによる死亡リスク減少が見られていることから、この結果を日本でも同等の効果があると考えること(外挿すること)は自然な考えと思います。
また、今回の研究結果は「一度の検査でもこれだけの可能性がある」という素晴らしい出発点を示しています。
いままでの観察研究の結果では継続的な胃内視鏡検査により、胃がんによる死亡減少効果が高まることが知られているため、継続的な胃内視鏡検査により、より多くの胃がん、食道がんを予防できる可能性があります。
4. あなたの健康にどう活かすか?
本研究は、症状がない段階で胃内視鏡検査を行うことで、食道がんや胃がんを減らすことが明らかになった研究です。
40歳ごろから(残念ながら多くの地域の胃がん検診では胃カメラの選択は50歳から)、積極的に胃内視鏡検査を行うことが重要と言えます。
人間ドックや胃がん検診などの機会を積極的に活かすことで胃がんによる死亡リスクを大幅に軽減できることが示されました。
また、本研究では、一度だけの胃内視鏡検査で食道がん、胃がんの死亡リスクを43%減らすことに成功したわけですが、継続的な胃内視鏡検査で胃がんによる死亡リスクが減らせる可能性については国内の観察研究などで示されているため、継続的な内視鏡検査を行うことも強く推奨します。
オリンパス社が2024年に行った14100人に対する大規模アンケート調査によると、胃がん検診で胃内視鏡検査を選択できる年齢である50代になっても、一度も胃内視鏡検査を行っていない方が40.6%でした。
また、一度しかやったことがない方は20%でした。
同報告では胃がん検診を受けない理由の31.5%が症状がないからと答えています。
今回の中国の研究で、症状がない方でも40歳以上の方は胃内視鏡検査を行うことで食道がん、胃がんによる死亡リスクが減らせることが示されたため、積極的に人間ドックや胃がん検診などの機会を利用することをおすすめします。
5.まとめ
本研究は、無症状の方でも、胃内視鏡検査を行うことで食道がん、胃がんのリスクを減らすことを、質の高い研究として示しました。
しかし、他の観察研究なども勘案すると、継続的に胃内視鏡検査を行うことで、さらに食道がん、胃がんによる死亡リスクを減らしうることなどについてまとめました。
一方で、最新のアンケート調査によると、胃内視鏡検査を受けたことがない方もおおいことが示されており、食道がん、胃がんによる死亡抑制効果を考えると、もったいないことだと思います。
もしも、症状がある、人間ドックなどで胃内視鏡検査を検討しているなどあれば当院へご相談ください。
当院の院長である森田洋平は日本消化器内視鏡学会専門医であるだけでなく、MPH(公衆衛生大学院修士)です。
MPHとは今回のような最新文献を実際の医療に適応していく専門科と考えてください。
当院では鎮静剤を用いた検査、経鼻内視鏡検査など苦痛の少ない方法を提案するとともに、専門医がAIなどの最新機器を用いることで、見落としを最小限にする工夫を行っています。
つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県外も含めて広い地域から多くの患者様が来院されています。
安心してご相談ください。
参考:
1, Xia C, Li H, Xu Y, et al. Effect of an Endoscopy Screening on Upper Gastrointestinal Cancer Mortality: A Community-Based Multicenter Cluster Randomized Clinical Trial. Gastroenterology. 2025;168:725-740.
https://doi.org/10.1053/j.gastro.2024.11.025
2, オリンパス社 胃・大腸がん検診と内視鏡検査に関する意識調査白書2024
https://www.olympus.co.jp/csr/social/survey/2024/
よくある質問
Q1. 胃カメラ検診は何年ごとに受けるのが理想ですか?
現在の日本の指針では2年に1回が推奨されていますが、ピロリ菌の有無や既往歴により異なります。継続的な受診でリスク低下効果が高まることが示されています。
Q2. 胃がん検診はバリウムでもよいですか?
バリウムよりも胃内視鏡検査の方を強く推奨します。バリウムによる胃がん死亡抑制効果はごく僅かです。また、食道についてはほとんどわからないため、今回の中国の研究で見られたような食道がんの死亡リスクを50%減少のような大きな効果を期待することはできません。さらに、バリウムで検査をしても要精査で胃内視鏡検査を結局は行う方も多いです(そしてほとんどは病変はありません)。詳しくは下記の記事をご参照ください。
Q3. 胃カメラは辛いイメージがあるのですが、楽にできますか?
当院では鎮静剤を用いた無痛内視鏡検査などを実施しています。当院の口コミでも気づかないうちに終わったなどの意見が多数あるのでご参照ください。その他、ご不安な方は大規模アンケートで挙げられている胃内視鏡検査のご不安に対しての記事があるのでご参照ください。
▶胃内視鏡検査、5つの不安に答えます
当院ではほとんどの方が胃カメラで鎮静剤を用いています。
▶胃カメラで鎮静剤が選ばれる理由
Q4. つくば市の胃がん検診について教えて下さい。
つくば市の胃がん検診について、当院では電話での受付を行っています。詳しくは下記のページをご参照ください。
電話番号:029-879-7878Q5. 大腸カメラも一緒にできますか?
症状に応じて、胃カメラと大腸カメラを同時に行うことができます。特に腹部症状があって、胃がんも大腸がんもどちらも不安なときにどちらも検査される方もいらっしゃいます。
【作成・監修】 辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック 院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医、MPH 公衆衛生大学院修士)
MPHは公衆衛生大学院修士という、医療情報をどのように解釈し使用するかのスペシャリスト教育課程終了者のことです。医療制度、疫学データ、予防医学などの専門と考えてください。