先日、つくば市役所で開催された胃がん検診の研究会に参加してきました。
今回の研究会を通じて改めて、つくば市における内視鏡による胃がん検診の重要性を実感しました。
時間は夜7時から9時と遅い時間にもかかわらず、多くの先生方が熱心に耳を傾けており、つくば市の先生方の医療に対する意識の高さ、真面目な姿勢を強く感じました。
以前、柏市で同様の会に参加した際は参加者が非常に少なかった経験があるため、つくばの先生方の意欲には感銘を受けました。
とはいえ、本来は胃がん検診に参加する施設が全員参加のはずなので、少し残念な気持ちはあります。
この記事では、つくば市の胃がん検診報告会について参加した感想などを共有します。

1. 胃がん検診の現状と、知っておきたい食道がんのこと
研究会の内容は、つくば市の胃がん検診の成績についてのお話が中心でした。
現状、つくば市ではバリウム検査が圧倒的に多く、内視鏡での胃がん検診はまだ一般的ではないという印象を受けます。
その後の症例検討会で特に印象的だったのは、発表された11例の胃がん・食道がん症例のうち、食道がんが3例も含まれていたことです。
近年、ピロリ菌感染率の低下や除菌率の向上により、胃がんそのものは減少傾向にあります。
しかし、胃がん検診と銘打たれた場で、これだけ食道がんの存在感が増していることに、こういった疾患構造の変化を強く実感しました。
食道がんは、早期発見が非常に重要でありながら、バリウム検査では見つけにくいケースも少なくありません。
この点からも、やはり内視鏡検査が胃がんだけでなく、食道がんの早期発見においてもその価値を大いに発揮すると改めて実感しました。
当クリニックとしても、内視鏡検査をより身近に感じていただけるよう、引き続き情報発信に力を入れていかねばならないと強く感じています。
2025年に発表された中国での大規模研究でも胃内視鏡検査を行うことでの、食道がんによる死亡リスクの軽減ついても報告されていました。
【参考】無症状の方への胃内視鏡検査で43%の胃がん・食道がんによる死亡リスク減少
2. 最新の知見から学ぶ、日常診療への応用
研究会では、東京医科大学健診センター特任教授の河合隆先生から、ピロリ菌未感染胃がんや除菌後の胃がんについて大変実践的なご講義をいただきました。
特に興味深かったのは、ピロリ菌除菌後に起こりやすい逆流性食道炎への治療、例えば長期的な胃薬の服用と、それに伴う胃がん発生の関係についてのお話です。
近年話題のトピックとして、胃内の感染症による胃がん発生のメカニズムについても詳しく説明していただきました。
胃酸があるから、ピロリ菌以外は胃内にいないと古くから信じられていましたが、ピロリ菌除菌後の胃がんの発生など、新たな知見からのホットトピックでした。
特に、ピロリ菌除菌後で胃酸分泌が弱い方に対して、さらに胃酸を抑えるような逆流性食道炎の治療薬を使っている方では、このリスクが上がるのではないかという警鐘です(とはいえ、症状がある方には治療薬を使わざるをえないので、不必要に薬を使わないとか、フォローアップの検査が必要な方がいるという内容です)。
当院では、患者さんの症状がある時にだけ胃薬を服用する「オンデマンド治療」を推奨しています。
先生の講義内容は、この当院の考え方と多くの点で合致しており、改めて治療方針の適切性を確認できました。
同時に、他の医療機関で長期にわたって胃薬を処方されている患者さんに対し、より積極的に胃内視鏡検査の受診をおすすめするなど、日々の診療でさらにできることが多いと感じました。
今日の診療から早速活かしていけるような、大変示唆に富む内容で、非常に有意義な時間となりました。
3. 地域医療への感謝と貢献
今回の研究会をとりまとめてくださったつくば市の胃がん検診に尽力されている諸先生方、そして市役所のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。
当院では、これからも地域の一員として、このような学びの場を大切にし、胃がんだけでなく、消化器がん全般の早期発見と治療に真摯に取り組んでまいります。
定期的な胃がん検診は、ご自身の健康を守るために非常に大切です。
ご不安なことや気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
AIを活用した最新の内視鏡機器と消化器領域の専門医による丁寧な検査で、安心して受けていただける環境を整えています。当院には、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県外も含めて広い地域から多くの患者様が来院されています。
【作成・監修】
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック 院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医、MPH(公衆衛生大学院))
MPHは疫学研究などを通じて、胃がんなどの公衆衛生上の問題を解決するスペシャリストです。ただ内視鏡検査を行うだけでなく、人生においてどのような価値がある検査かも含めた情報発信を心がけています。
よくある質問
Q1:つくば市の胃がん検診は、バリウム検査と内視鏡検査のどちらがおすすめですか?
内視鏡検査がおすすめです。色々な意見があるとは思いますが、バリウム検査は過去に効率的に多くの方に検査を提供するという目的で行われていたものと考えています。内視鏡検査が一般的になっている現状で、バリウム検査を胃がん検診として選択するメリットはほとんどないと思います。
詳しくは胃がん検診で胃内視鏡検査をお勧めする理由をご参照ください。
Q2:内視鏡検査では、胃がん以外も見つかることがありますか?
はい。特に早期の食道がんや逆流性食道炎、萎縮性胃炎なども発見されることがあります。今回の研究会でも、食道がんの症例が複数報告されており、内視鏡の有用性が再確認されました。まさにそこが胃内視鏡検査のメリットであると言えます。
Q3:ピロリ菌を除菌したら、もう胃がんの心配はないのですか?
除菌によって胃がんのリスクは大きく下がりますが、ゼロにはなりません。除菌後でも年に1回程度の内視鏡検査で定期的に胃の状態をチェックすることが推奨されています。フォローアップが必要な場合は、保険での検査もご検討ください。
Q4:胃薬をずっと飲み続けていると胃がんのリスクが上がるのですか?
近年の研究では、長期的な胃薬の服用が胃がんの発生と関連する可能性が示唆されています。症状があるときに、たまに使用するぐらいの場合は、胃がんのリスクであるとは認識されていません。逆流性食道炎などで長期的に胃薬を内服している場合は、毎年胃カメラを行うのをお勧めします。
Q5:症状がなくても内視鏡検査を受けた方がいいですか?
はい。特にピロリ菌に感染したことがある方や、胃がんの家族歴がある方は、症状がなくても定期的な内視鏡検査が重要です。早期がんは無症状のうちに発見されることが多いため、予防的な検査が非常に効果的です。国内外でも、無症状の場合の胃内視鏡検査による胃がん抑制効果は明確に示されています。
Q6:胃がん検診は一度受ければ十分ですか?
いいえ、十分ではありません。先ほど例に出した中国での大規模臨床研究では胃がん・食道がんによる死亡リスクを43%減らしたと報告されています。逆に言うと、57%の胃がん・食道がんによる死亡リスクを減らせていません。定期的な内視鏡検査で胃がんのリスクがさらに減らせることが示されているため、胃がん検診のチャンスを活用して少なくとも2年に1回は胃内視鏡検査を受けましょう。
【参考】無症状の方への胃内視鏡検査で43%の胃がん・食道がんによる死亡リスク減少
Q7:胃カメラが不安なんですが大丈夫ですか?
胃カメラは不安ですよね。大規模アンケートからみる、5つの不安に対して、当院で行っている工夫についてお答えした記事があります。ご参照ください。
【参考】14100人のアンケートから見る5つの不安に専門医が答えます