私自身も医師として、多くの患者さんからそのような声を聞いてきました。しかし、本当にそれは避けられない苦痛なのでしょうか?
私が現在実践している「無送気軸保持短縮法」では、従来の検査とは全く異なるアプローチで、患者さんの苦痛を減らすことが可能になっています。
この記事を最後まで読んでいただければ、
• なぜ一般的な大腸内視鏡検査が痛みを伴うのか
• 医師がどのような苦悩と努力を経て「無痛」の技術を習得するのか
• つくばの内視鏡クリニックである当院がどのような思いで大腸内視鏡検査を行っているか
についてご理解いただけると思います。
これは、辻仲グループと私の、大腸内視鏡検査にかける想いの物語です。

目次
1. なぜ従来の大腸内視鏡は苦しいのか?
まず、従来の大腸内視鏡検査がなぜ苦痛を伴うのかを理解していただく必要があります。それは、内視鏡により、腸管が引き伸ばされ、それに伴う痛みが発生するということです。この腸管が引き伸ばされる原因の一つが空気です。
1-1. 腸が伸びる「過伸展」が痛みの正体
一般的な大腸内視鏡検査では、腸管内に空気を送り込んで腸を膨らませ、視野を確保しながらスコープを挿入していきます。この時、以下のような問題が生じます:
過度の送気による腸管の過伸展:お腹が風船のように膨らみ、強い痛みや不快感を引き起こします
腸管の蛇行による抵抗:S状結腸などの曲がりくねった部分で、スコープが押し込まれることで腸管がさらに伸び、痛みが増強されます
体位変換の頻発:スコープの進行が困難になると、患者さんに何度も体位を変えてもらう必要があります
1-2. 私が実践する「無送気軸保持短縮法」の2つの革新性
一方、私が実践している無送気軸保持短縮法では:
最小限の送気:必要最小限の空気のみを使用し、腸管の自然な形を保ちます
軸保持による直線化:腸管を引き寄せて直線化することで、自然な状態で進行できます
結果として、患者さんは疼痛を感じにくいわけです。
2. 私が「無痛の内視鏡」に辿り着くまでの道のり
個人的な話ですが、私が無送気軸保持短縮法に出会うまでの話をさせてください。
2-1. 挫折からのスタート「10cmの衝撃」
私の中での医師像は、なぜか内視鏡を触っているものでした。何かのドラマとかの影響なのかわかりませんが、そんなイメージがついていました。
研修医時代でも、内視鏡に一生携わるんだろうなという直感があり、消化器科以外の科を回っているときも内視鏡室に顔を出したり、内視鏡室の掃除をしたりして看護師の関心を得るなどし、同期に先んじて内視鏡検査を経験していきました。
とはいえ、大腸内視鏡検査のような熟練が必要な検査の機会は研修医にはなかなか回ってきませんでした。
チャンスは地方研修で訪れた伊豆で巡ってきました。行く前から内視鏡をやりたい旨を説明していたところ、何件か経験させてもらう機会を得ました。
満を持して、初めて行った大腸内視鏡検査ですが、10分間やらせていただいて、なんと、10cm程度しか入らず、上級医と交代となりました。
10cmといえば、肛門診察で観察できる程度の距離です。つまり、高価な内視鏡を使って、指でできることしかできなかったわけです。『先生、それ内視鏡じゃなくて外視鏡では?』と言われそうなレベルでした。
かなり衝撃をうけるとともに、一生かけて技術を学ぶ価値のある検査だなと感じました。
その後は、消化器外科を専攻し、日常的に内視鏡検査をおこなうことで、徐々に大腸内視鏡検査にもなれていきました。そんな中、上司から空気を入れないで(送気する機能を停止して)大腸内視鏡検査を行っている施設があると聞きました。
やってみたら、全く検査ができず、送気しないぐらいの気持ちでってことでしょうと勝手に解釈していました。これが私にとって初めての無送気軸保持短縮法との出会いでした。
2-2. 人生を変えた「辻仲病院での衝撃的な光景」
転機は偶然訪れました。縁があって辻仲病院柏の葉でバイトをする機会を得たのです。そこで目にした光景は、私のそれまでの常識を完全に覆すものでした。
それまで、私がみていた内視鏡検査では、患者さんが痛くても押し込んで検査を行うもので、先輩医師がやったとしてもかなり苦しい検査でした。また、検査がうまいと言われる人でも、盲腸への到達時間(盲腸が大腸の入口なので、肛門から一番おくまでいれるまでの時間)が15-30分ぐらいかかるのが通常であり、5%程度は盲腸へ到達しないという認識でした。患者さんだけでなく、検査する医師も汗だくになって検査をした記憶があります。
辻仲病院柏の葉でバイトする前に、内科外来をバイトで担当していた病院では、30%近くが盲腸へ到達させることができておらず、外来で検査予約をたてるのにも罪悪感を感じていたぐらいでした。
実際に、辻仲病院柏の葉でみた大腸内視鏡検査は衝撃的でした。患者さんは全く痛がらないし、盲腸への到達もほとんどの症例で5分を切っていました。
大腸内視鏡検査は1例1例、大変で汗をかいて入れていた自分からすると、なんの山場もなく検査がどんどん終わっていくさまを見て衝撃を受けました。この感動が、私の人生を大きく変えることになります。入門するつもりで勤務先自体を変更し、本格的にこの技術を学ぶ決意を固めました。
3. ブラックボックスとの闘いと、動画との格闘の日々
正直、挿入法自体を変更したので、最初はもともとの挿入よりも下手になったところからスタートしました。先輩医師たちに助けてもらいながら修練を重ねていきました。
辻仲病院で、尊敬する内視鏡医の先生から動画を紹介されました。「これが軸保持法の最前線だ」周囲の医師たちからは『動画見すぎでしょ』と言われ、『その動画、もう暗記してるんじゃない?』とからかわれるほどでした。実際、通勤途中に動画をみていたら、勝手に内視鏡操作の指が動いていました(笑)。
なぜここまで動画に頼らざるを得なかったのか。それは、大腸内視鏡検査が本質的にブラックボックスだからです。
大腸内視鏡検査において、直腸、下行結腸、上行結腸は腹壁に固定されているため、比較的予測可能な領域です。しかし、S状結腸は全く異なります。S状結腸は大腸が腹腔内で固定されていない部分が多く、曲がりくねっており、個人差も大きく、外からは全く見えません。ここがまさにブラックボックスなのです。
このブラックボックスでの操作は、主観的な画面の変化と手の感覚だけに頼らざるを得ません。師匠の動きを直接見ることはできても、その時の手の感覚や微細な判断基準を直接的に学ぶことは不可能です。だからこそ、動画を繰り返し見て、自分の感覚とすり合わせていく作業が欠かせませんでした。
実際には、ブラックボックスにどのように入るかを定型化するところから勝負が始まっており、ブラックボックスの局面打破よりも手前ですでに勝負がついているという衝撃も、辻仲病院柏の葉に来るまで気づいていませんでした。
4. 「見ないで進む」技術の真髄とは
当初、私は単純に「空気を入れないで押さなければよい」と考えていました。しかし、空気を多用する挿入派の先生との議論を通じて、より深い理解に至りました。空気を入れないだけでは不十分だったのです。水を大量に入れても腸管は拡張してしまい、真の意味での軸保持とはなり難いことに気づきました。
重要なのは:
- 粘膜のひだの微細な変化を読み取ること
- 血管の走行パターンを理解すること
- むしろ前が見えないことの重要性(前が見えるということは腸管が伸びている証拠)
これらの発見により、私の技術は飛躍的に向上しました。辻仲病院で学んだ最も重要なことの一つが、S状結腸の細分化でした。従来、私は「S状結腸はS状結腸」という大雑把な認識でした。しかし、ここでひだの展開具合や微細な血管の走行から、S状結腸をさらに細分化して認識できるようになったのです。この細分化により、場面場面において最適な技を選択できるようになりました。
4-1. 運転に例える「視野の使い分け」
私はよく大腸内視鏡検査の初学者の方に対して、運転の例えでお話しします。高速道路での運転では、次の目的地を認識し、その速度に合わせて車間距離を取り、遠くの情報を重視しながら運転しますよね。市街地での運転では、眼の前に人が飛び出してくるかもしれないという注意をしながら、ごく近くの変化に注意を向けます。
大腸内視鏡検査も同じです。
S状結腸(市街地に相当)では、ひだの走行の変化や微細な血管の走行を認識し、あえて先が見えない状態で次の管腔に滑り込ませて進ませていきます。これにより腸を曲がらせることなく軸を保持して挿入できます。
下行結腸や上行結腸(高速道路に相当)では、まっすぐ伸びた状態なので、ひだや血管走行ではなく、もっとダイナミックな3次元構造での曲がり角を目印にしていきます。
4-2. 「手抜き」ではなく「最大限の配慮」である理由
技術が向上してくると、展開がわかってきて、自分が見えない管腔の位置を手元の操作で自在に自分の入れやすい方向に変えることができるようになってきます。次の管腔の位置を自分の入れやすい位置に調節することで、見ないで次の管腔に進めることができるようになるのです。
過去に、この「見ないでも入るような感覚」について医師向け講演会で話をしたところ、「患者さんに失礼だと思う」という批判を受けたことがあります。しかし、これは完全に誤解に基づく批判だと私は確信しています。
従来法では、腸管を無理に押し広げて「見える状態」にして進むため、患者さんに痛みや不快感を与えてしまいます。
無送気軸保持短縮法では、腸管の自然な形を保ったまま、手の感覚と微細な画像情報だけで進むため、患者さんの負担を最小限に抑えられるのです。
これは「手抜き」ではなく、患者さんへの最大限の配慮から生まれた最高度の技術なのです。軸保持法では「スコープを引いて腸をたわませないのがコツ」と認識されることが多いですが、スコープを引き続けているのに奥に入ったらそれは手品になってしまいます。重要なのは、距離を意識して「先を見ないで進める場所」なのか「先を見ながら進めていく場所」なのかを的確に判断することなのです。
5. つくばでの実践:今もまだうまくなっている驚きと、より質の高い検査へ
辻仲病院で学んだ技術をベースに、つくばの地域性や当院の環境に合わせてさらなる改良を加えました。
技術を磨き続けてきて、「もはやうまくなることのない領域に到達した」と思った時期がありました。柏の葉では、「ほかでは痛すぎて無理」という方ばかり担当して、満足して帰っていただいていたためです。しかし、現在でも自分がまだうまくなっていることに驚きを感じています。
特に、私がつくばに来てから、鎮静剤の種類を変更しました。より鎮静効果が高く、作用時間が短いために安全な薬剤への変更です。使い方の難しい薬剤であるため、様々な医療機関へ見学に行き、より適切な鎮静コントロールを習得しました。
鎮静剤に習熟することで、内視鏡挿入のレベルも劇的に変化したと実感しています。もはやうまくならないというのはただのおごりであり、常に改善点があると反省しています。少しでも名医とか上手いなどと呼ばれるレベルに近づけるよう、日々精進するのが重要だと考えています。
もともとはつくばの交通事情に合わせて、鎮静剤を使っても運転して帰宅できる、そんな状態を目指すための新しい鎮静剤の導入でしたが、結果的には、自分の内視鏡技術をさらに新境地へ運んでくれて、患者さんの満足度も飛躍的に向上することとなりました。
最近は、院長として、次の次元の大腸内視鏡検査を目指しています。
具体的には、安全な鎮静剤の実施のためにスタッフに救急対応の研修に行ってもらう、検査の質を上げるために、適切な大腸内視鏡の観察時間を意識して、見えづらい大腸ポリープの発見に励むなど、挿入が楽にできるようになった次の段階を求めています。
検査の大変だとされる部分を楽に行うことができるので、その分、観察時間を意識して、よりたくさんポリープを発見する、質の高い検査に取り組んでいます。
大腸ポリープを切除することが、大腸がんの予防になるためです。
6. 地域医療への想いと、患者さんの笑顔のために
つくば市をはじめとする地域の大腸がん検診受診率向上への貢献も、私の重要な使命だと考えています。特に、便潜血検査陽性(大腸がん検診陽性)などの、症状がないのに検査される方は、今困っていないのに辛いかもしれない検査を受けることにご不安を感じるかもしれません。
地方の医療スタッフ、患者さんと話をすると「つらくない内視鏡とか、東京の方だとあるみたいですね」と言われることがあります。
茨城県のような一都三県から外れた地域であっても、一人でも多くの方につらくない検査を受けていただき、安心していただくのが私たちの使命だと思っています。
便潜血検査陽性のみならず、下血、便秘、下痢などで大腸癌などが心配である方についても、安心できる内視鏡検査を提供できるように励んでいます。
まとめ
私がこれほどまでに技術にこだわり、その道のりをお話ししたのは、他でもない、今この文章を読んでくださっているあなたの不安を、少しでも和らげたいからです。
「検査は痛いものだ」と諦めないでください。
「がんが心配だけど、検査が怖い」とためらわないでください。
私たちの技術と経験が、あなたの健康への一歩を、力強くサポートします。
大腸内視鏡検査への不安や恐怖をお持ちの方、過去に辛い経験をされた方、ぜひ一度当院にご相談ください。症状があるけれど検査自体に不安をお持ちの方も、どうぞお気軽にご相談ください。
当院には、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県全域の広い地域から多くの患者様が来院されています。