診察室で、あるいは検査の同意書にサインをするとき、この一文を目にしてドキッとした経験はございませんか。大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることを決めたものの、「もし自分にポリープがあったら…」と、急に現実味を帯びて不安に思われる方は少なくありません。
こんにちは、辻仲つくばクリニック院長の森田です。 日々、多くの患者さんの大腸内視鏡検査を行っていると、「そもそも、ポリープってどのくらいの確率で見つかるものなんですか?」というご質問をよくいただきます。
結論からお伝えしますと、大腸ポリープが見つかること自体は、決して特別なことではありません。大切なのは、その数字に過度に不安になるのではなく、「なぜ見つけることが重要なのか」「質の高い検査とは何か」を正しく知っていただくことです。
今回は、皆さまのそんな疑問や不安にお答えするために、医学的な根拠に基づいて「大腸ポリープが見つかる確率」と、その数字が意味することについて、詳しく解説していきます。
目次
1. 大腸ポリープ発見は、決して珍しいことではありません
さて、冒頭の質問にお答えしましょう。大腸ポリープが検査で見つかる確率は、様々な医学報告を総合すると、おおよそ30~50%と言われています。つまり、検査を受けた方の3人に1人から、2人に1人には何らかのポリープが見つかる計算になります。
「そんなに高いの?」と驚かれるかもしれません。 特に、40歳を過ぎると、大腸ポリープの発見率は年齢とともに上昇していくことが知られています。自覚症状が何もない方でも、見えないところでポリープが静かに育っている可能性があるのです。だからこそ、多くの自治体や学会では、40歳を節目とした大腸がん検診、便潜血検査を推奨しているのです。
まず知っていただきたいのは、この「30-50%」という数字は、怖がるためのものではなく、「自分にも見つかる可能性がある、ごく当たり前のこと」と捉えていただくためのものだということです。
2. なぜ、見つけたら切除した方が良いのか?科学的根拠から解説します
では、なぜ私たちはこれほどまでにポリープを見つけ、切除することを重要視しているのでしょうか。それは、「大腸ポリープの切除が、将来の大腸がんを予防する上で最も確実な方法である」ことが、科学的に証明されているからです。
その最も強力な根拠の一つが、日本で行われた「JPS study」という大規模な研究です。この研究では、内視鏡でポリープを切除したグループと、切除しなかったグループを長期間にわたって追跡調査しました。その結果は明らかで、ポリープを切除したグループの方が、その後の大腸がんの発生率が有意に低く、なんと86%も大腸がんの発生を減らしたことが示されました。これは、ポリープの段階でがんの芽を摘み取ることが、いかに有効であるかを示しています。
さらに、もう一つ重要な指標があります。それは「ADR(Adenoma Detection Rate:腺腫発見率)」です。少し専門的な言葉ですが、これは「検査を担当する医師が、がんになる可能性のある”腺腫”というタイプのポリープを、どれだけ見つけられているか」を示す、いわば医師の”ポリープ発見能力”を示す成績表のようなものです。
2014年に掲載されたCorley氏らの論文によると、「ADRが1%向上すると、その後の大腸がんの発生リスクが3%、死亡リスクが5%低下する」と報告されました。これは衝撃的なデータであり、質の高い内視鏡医による「見逃しのない検査」が、患者さんの未来を直接的に守ることに繋がることを意味しています。
3. 「見つけること」自体が、質の高い検査の証
これらの科学的根拠に基づき、現在の大腸内視鏡検査の世界では、検査の品質を担保するための世界的な基準が設けられています。特に大腸がん予防に直結する、大腸ポリープ発見率であるADRは重要な指標です。
3-1. 米国での大腸ポリープ発見率の基準
その基準は年々厳しくなっています。2015年の米国消化器内視鏡学会(ASGE)のガイドラインでは男性で30%、女性で20%とされていたADRの目標値が、2024年8月に『The American Journal of Gastroenterology』で発表された最新の米国消化器内視鏡学会(ASGE)のガイドラインでは、ADRの目標値が「男性で40%、女性で30%」という非常に高いレベルに引き上げられました。特に血便、下痢、便秘を含む症状がある方については、さらに高いレベルが求められています。
さらに、この最新ガイドラインで特筆すべきは、新たに見つけにくい「鋸歯状病変(SSL)」の発見率(SSLDR:Sessile Serrated Lesion Detection Rate)も、正式に質の指標として追加されたことです。SSLは、平坦で色の変化に乏しく、がん化のリスクがあるにもかかわらず、発見が非常に難しいポリープです。このSSLの発見率(具体的な目標値は6%以上とされています)まで問われるようになったことは、現代の内視鏡医に求められる技術レベルが、より一層高まっていることを明確に示しています。
3-2. 日本での大腸ポリープ発見率の基準
もちろん、日本の「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」でも、これらの質の指標の重要性は繰り返し強調されています。2025年7月現在の最新版である2020年発行のガイドラインでは以前の米国の基準である男性で30%、女性で20%が踏襲されています。
したがって、「ポリープが見つかった」ということは、落ち込むべきことではなく、むしろ「将来のがんリスクをきちんと見つけ出してくれた、世界の最新基準を満たす質の高い検査を受けられた証拠」と前向きに捉えていただきたいのです。
つまり、最新のガイドラインを考察すると、腺腫およびSSLを含めて、40%ぐらいの方で切除すべき大腸ポリープが見つかるということになります。切除すべきかどうか微妙なものも切除することもあるので、50%程度の方に対してポリープ切除を行うというのが良いクリニックの指標であると私は考えています。
4. ポリープ切除率をあげるための大腸内視鏡観察時間の重要性
そして、これらの高い発見率を達成するための絶対的な土台となるのが「観察時間」です。2006年の画期的な研究(Barclay RL, et al.)では、観察時間が6分以上の医師は、6分未満の医師に比べて腺腫の発見率が28.3% vs 11.8%と、2倍以上も高かったことが示されています。現在の「最低6分間」というルールの根拠となった、非常に重要なデータです。
日本のガイドラインでは最低6分とされていますが、2025年最新版の米国消化器内視鏡学会のガイドラインではこれが8分とより厳しく規定されています。
恥ずかしながら、私自身も以前は観察時間をそれほど意識せずに検査を行っていた時期がありました。しかし、日本のガイドラインで「最低6分間の観察時間」が明文化された後、意識的に観察時間を確保して検査を行うようになると、確実にADR(腺腫発見率)とSSLDR(鋸歯状病変発見率)が向上したのです。
この経験から、観察時間の確保がいかに重要であるかを身をもって実感しました。同じ内視鏡を使い、同じ患者さんを検査していても、「時間をかけて丁寧に観察する」ことで、見つけられるポリープの数が明らかに変わったのです。
検査を受ける際は、検査自体の苦痛軽減だけでなく、「観察時間も含めた検査の質を意識しているクリニックかどうか」も重要な選択基準にしていただければと思います。
5. だからこそ「質の高い検査」を提供するクリニック選びが重要です
ここまでお読みいただいて、「ポリープを見つけること」の重要性をご理解いただけたかと思います。ポリープ発見はゴールではなく、がん予防のスタートです。
そこで最も大切になるのが、「①苦痛なく、②精度高く見つけ、③体に負担なくその場で切除する」という3つの要素です。これらを実現するために、クリニックではどのような工夫をしているのか。当院の取り組みを例にご紹介します。
5-1. 質の高い観察・処置の土台【鎮静剤を用いた無痛検査】
質の高い検査の、すべての土台となるのが「患者さんが苦痛を感じないこと」です。当院では、鎮静剤(静脈麻酔)を使用し、うとうとと眠っているようなリラックスした状態で検査を受けていただける「無痛内視鏡検査」を基本としています。
これは単に「楽だから」というだけではありません。患者さんが完全にリラックスしてくださることで、私たち医師は一切の妥協なく、検査に100%集中できるという、計り知れないメリットがあるのです。
患者さんが痛みや不快感で体を動かすことがないと、
- 十分な観察時間(6分以上)を確実に確保できます。
- 腸のヒダを隅々まで広げて観察するための十分な送気(空気で腸を膨らませること)が、ためらいなく行えます。
- 見逃しやすい大腸のヒダのうらなどについての丁寧な手技を、患者さんの苦痛を気にすることなく、徹底的に実施できます。
つまり、苦痛のない状態が、結果的に最も見逃しのない、精度の高い検査に繋がるのです。
医師も人間ですから、患者さんが苦痛に思っていれば早く検査を終わらせてあげようと思いますし、医療機関の評判にも直結します。そもそも苦痛がない方法を提供するということが検査の質をあげるための1丁目1番地だと我々は思っています。
実際、Google口コミをご覧になって頂くと分かるのですが、大腸ポリープを含めて苦痛なく行えたといううれしいご報告を多数いただいています。
5-2. そもそも検査の精度を上げる準備【腸をきれいにする下剤の工夫】
大腸内視鏡検査の成否は、実は検査前日の「下剤(腸管洗浄剤)の内服」で、その大部分が決まると言っても過言ではありません。腸の中に便が残っていると、ポリープが隠れてしまい、どんなに優れた内視鏡やAI技術を使っても、見つけることはできません。
実際、先ほどの最新ガイドラインの重要ポイントにもこの点があげられています。
しかし、この下剤を飲むのが「つらい」「大変だ」と感じる方が多いのも事実です。味が苦手だったり、量をたくさん飲めなかったり…。
そこで当院では、患者さんが少しでも楽に、そして確実に腸をきれいにしていただけるよう、複数の工夫をしています。飲む量が約1Lで済む少量のタイプや、錠剤タイプの下剤、8基のトイレを用いた院内での下剤内服オプションなどもご用意しています。
どうしてもきれいにならない方については腸管洗浄を行うこともあります。当院にはそのための洗腸室が完備されています。
また、最近はAIを用いて便の状態が十分であるかを判定しており、ご自宅でも安心して内服できる工夫を行っています
患者さん一人ひとりの既往歴や好みに合わせて最適なものを選択し、飲み方のコツなども丁寧にご説明することで、最高のコンディションで検査に臨めるようサポートします。
5-3. 見逃しを限りなくゼロに近づける【AIによる診断サポート】
近年の内視鏡技術の進歩は目覚ましく、その中でも特に注目されているのが「AI技術」の導入です。当院でも、内視鏡システムに搭載されたAI診断サポート機能を活用しています。
これは、内視鏡が映し出す映像をAIがリアルタイムで解析し、ポリープが疑われる箇所を自動で検知して、モニター上に印を表示してくれるシステムです。いわば、熟練した内視鏡医の「第二の目」として、一緒にポリープを探してくれる頼もしいパートナーです。
特に、人間の目だけでは認識しづらい、平坦で色の変化が乏しいポリープや、ミリ単位の微小なポリープの発見に絶大な威力を発揮します。ベテラン医師の経験と、AIの客観的な解析能力を組み合わせる「ダブルチェック体制」によって、見逃しのリスクを限りなくゼロに近づけることを目指しています。
5-4. 見つけたらその場で解決する【日帰り切除という選択肢】
もしポリープが見つかった場合、最も理想的なのは「その場で切除してしまう」ことです。後日、切除のためにもう一度つらい下剤を飲み、仕事を休んで来院する…といった時間的・経済的な負担をなくすことができます。
当院では、この「日帰りポリープ切除」を安全に行うために、ポリープの段階に応じて様々なポリープ切除の方法を用いています。また、とった組織の結果(病理検査結果)の説明についてもオンラインでの説明も可能です。
まとめ
30-50%という数字は、決して怖がるためのものではありません。むしろ、それだけ多くの方に「将来のがんを防ぐチャンス」が訪れているということです。大切なのは、そのチャンスを逃さず、確実に未来の安心に繋げること。
そのためには、今回ご紹介したような、
・鎮静剤で苦痛なく検査に集中できる環境
・腸をきれいにするための下剤の工夫
・AIなどを活用した高い発見能力
・体に負担の少ない日帰り切除技術
といった、「質の高い検査」を提供するための様々な工夫を行っているクリニックを選ぶことが、何よりも重要になります。
大腸内視鏡検査は、あなたと、そしてあなたの大切な家族の未来を守るための、最も効果的な「健康への投資」です。この記事が、皆さまの不安を少しでも和らげ、前向きに検査に臨むための一助となれば幸いです。
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック
AIを活用した最新の内視鏡機器と鎮静剤を用いた苦痛の少ない大腸内視鏡で、安心して受けていただける環境を整えています。当院には、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県全域の広い地域から多くの患者様が来院されています。
よくある質問
ご安心ください。当院では、鎮静剤(静脈麻酔)を使用してうとうとと眠っている間に検査を行う「無痛内視鏡検査」を基本としています。ほとんどの方が痛みや苦しさを感じることなく、気づいたら検査が終わっていたとおっしゃいます。過去に他院でつらい経験をされた方にも、安心して受けていただいております。
はい、当院では発見された大腸ポリープのほとんどは、検査中にそのまま日帰りで切除することが可能です。特殊な場合を除いて入院の必要はありませんので、お仕事などで忙しい方でも、一度の検査で発見から治療までを完結させることができます。大きなポリープについては後日入院して切除をお勧めすることもあります。
カメラを挿入している時間(観察時間)自体は、個人差はありますが10分~20分程度です。ただし、検査前の準備や、検査後に鎮静剤の効果が落ち着くまでリカバリールームでお休みいただく時間を含めますと、ご来院からお帰りになるまで、全体で2時間ほどみていただくと安心です。
はい、大腸内視鏡検査およびポリープ切除は、健康保険が適用されます。費用は保険の負担割合(1割~3割)や、ポリープの数・大きさなどの処置内容によって異なります。
3割負担の方で、観察のみの場合で自己負担が8000円程度、大腸ポリープを切除した場合は2万-3万円程度かかります。詳しくは当院の大腸内視鏡のページをご覧いただくか、診察時にお気軽にお尋ねください。
いいえ、鎮静剤を使用するため、すぐに運転を行う事は危険です。 鎮静剤の影響で、ご自身では問題ないと感じても、判断力や集中力が低下している可能性があり大変危険です。ご来院の際は、公共交通機関をご利用いただくか、ご家族の方に送迎をお願いしております。
当院では鎮静効果がすぐ切れるプロポフォールという薬剤を使用しております。体調によっては6時間後からの運転可能としています。
ADR(腺腫発見率)と大腸がんリスクの関係について
論文名: Adenoma Detection Rate and Risk of Colorectal Cancer and Death.
著者: Corley DA, Jensen CD, Marks AR, et al.
掲載誌: N Engl J Med. 2014;370(14):1298-1306.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1309086
ポリープ切除による大腸がん予防効果について(Japan Polyp Study)
論文名: Long-term Outcomes After Endoscopic Removal of Colorectal Adenomas: Results From the Japan Polyp Study.
著者: Japan Polyp Study Group
掲載誌: Clinical Gastroenterology and Hepatology. 2023
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1542356523005888
大腸内視鏡の質の指標に関する最新ガイドライン(2024年版)
ガイドライン名: Quality Indicators for Colonoscopy.
発行元: American Society for Gastrointestinal Endoscopy (ASGE) / American College of Gastroenterology (ACG)
掲載誌: Am J Gastroenterol. 2024 Sep 1;119(9):1501-1520.
概要: 9年ぶりに更新された最新の米国ガイドライン。ADRの目標値を男性35-40%、女性30%に引き上げ、新たに鋸歯状病変発見率(SSLDR)を5%以上と設定するなど、より厳格な品質基準を定めています。
https://journals.lww.com/ajg/fulltext/2024/09000/quality_indicators_for_colonoscopy.14.aspx
日本の大腸内視鏡スクリーニングに関するガイドライン
ガイドライン名: 大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン
発行元: 日本消化器内視鏡学会(JGES)
掲載誌: Gastroenterological Endoscopy. 2020;62(8):1519-1610.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/62/8/62_1519/_article/-char/ja/
観察時間と腺腫発見率の関係について
論文名: Colonoscopic Withdrawal Times and Adenoma Detection during Screening Colonoscopy.
著者: Barclay RL, Vicari JJ, Doughty AS, et al.
掲載誌: N Engl J Med. 2006;355(24):2533-2541.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa055498
ここまでご覧いただきありがとうございました。苦痛なく、質の高い大腸内視鏡検査についてご相談などあればご予約いただけると幸いです。