
目次
マンジャロ(チルゼパチド)とは?
「マンジャロ」は、2型糖尿病の治療薬として2023年に日本で承認された新しい注射薬です。
有効成分は「チルゼパチド」という化合物で、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の両方に作用する二重作動薬として設計されています。この二重作用により、従来のGLP-1受容体作動薬よりも強力な血糖降下作用と体重減少効果が期待できるのが特徴です。

日本の臨床試験では、マンジャロ単独投与でHbA1c7.0%未満の達成率が94%以上に達し、標準用量5mgでは平均6kg程度の体重減少も認められました。この顕著な効果から、肥満傾向のある2型糖尿病患者さんに特に適した治療選択肢として注目されています。
使用方法は週1回の皮下注射で、腹部や太もも、上腕に注射します。毎回場所を変えることで、皮下脂肪への負担を軽減できます。
GLP-1受容体作動薬の基本的な作用機序
食欲抑制の仕組みを理解するには、まずGLP-1という体内ホルモンの働きを知る必要があります。
GLP-1とは何か
GLP-1は「インクレチン」と呼ばれる消化管ホルモンの一つで、食事をすると腸から分泌されます。このホルモンは、血糖値を下げるインスリンの分泌を促進する重要な役割を担っています。
膵臓にはGLP-1が作用する「GLP-1受容体」があり、この受容体がGLP-1によって活性化されることで、血糖に応じてインスリン分泌が促されます。同時に、血糖を上げる働きのあるグルカゴンの分泌を抑えることでも、血糖値の上昇を防ぎます。
GLP-1受容体作動薬の働き
マンジャロのようなGLP-1受容体作動薬は、体内のGLP-1と同じようにGLP-1受容体に作用します。血糖に応じて膵臓からインスリン分泌を促すことで、血糖値を下げる効果を発揮するのです。
さらに、GLP-1受容体は脳や腎臓、心臓、そして舌の味蕾にも存在することが最近の研究で明らかになっています。この広範な分布が、食欲抑制をはじめとする多様な効果につながっているのです。

マンジャロの食欲抑制メカニズム
マンジャロが食欲を抑える仕組みには、複数の生理学的メカニズムが関与しています。
脳の食欲中枢への作用
マンジャロは脳に直接働いて食欲を抑制していると考えられています。
通常、分子量が大きいペプチドやタンパク質は血液脳関門(BBB)を通過できません。マンジャロの分子量は約4,813ダルトンと大きいため、自由に血液脳関門を通過することは難しいとされています。
しかし、食欲調節を担う視床下部や脳幹の一部には、血液脳関門の構造が比較的緩やかな領域があります。また、受容体を媒介した輸送機構を介して、少量が脳内に移行している可能性も指摘されています。こうした経路を通じて、マンジャロは脳の食欲中枢に作用し、満腹感を得やすくすると考えられているのです。
胃排出遅延作用
マンジャロは胃の内容物の排出を遅らせる作用も持っています。
この作用により、食後の血糖値上昇が抑えられるだけでなく、少ない食事量でも満足感を得ることができます。実際に、マンジャロを使用している患者さんからは「気づいたら食べる量が減っていた」「お腹が空かない」といった声が多く聞かれます。
外発的摂食行動の抑制
最近の研究では、GLP-1受容体作動薬が特定の「食行動のクセ」に影響を与えることが明らかになっています。
特に、食べ物の見た目や匂いなどの外的な刺激に反応して食べてしまう「外発的摂食行動」は、長期的に抑制されることがわかりました。治療開始前に外発的摂食行動の傾向が強い人ほど、治療後の体重減少や血糖コントロールの改善効果が大きいことも確認されています。
一方で、怒りや不安といった感情の変化に起因する「情動的摂食行動」や、減量や健康管理を目的として意識的に食事を制限する「抑制的摂食行動」に対する影響は、一時的な変化にとどまり、長期的な改善は得られにくいことも示されています。
マンジャロ特有の二重作用とは
マンジャロが他のGLP-1受容体作動薬と大きく異なるのは、GIPにも作用する点です。
GIPとGLP-1の相乗効果
GIP(グルコース依存性インスリノトロピックポリペプチド)もインクレチンの一つで、インスリン分泌を促進する働きがあります。さらに、GIPは脂肪組織に対するインスリン感受性を増強する作用も持っています。
マンジャロはGLP-1とGIPの両方の受容体に作用する「デュアルアゴニスト」として設計されており、この二重作用により、より強力な食欲抑制と体重減少が得られる可能性があるのです。

従来のGLP-1受容体作動薬との比較
オゼンピック(セマグルチド)やリベルサスなどの従来のGLP-1受容体作動薬と比較しても、マンジャロはGIPにも作用する点が特徴です。
臨床試験では、マンジャロは2型糖尿病患者に平均で約5〜10kgの体重減少をもたらしたと報告されています。この顕著な効果が、糖尿病治療薬でありながら「ダイエット薬」としても注目される理由となっています。
味覚の変化と食欲抑制の関連
興味深いことに、GLP-1受容体作動薬の使用者で味覚が変化したとの報告があります。
甘味や塩味を強く感じるようになる
2025年に発表された研究では、セマグルチドやチルゼパチドを使用する411人を対象に調査が行われました。その結果、21.3%が「甘味を強く感じるようになった」、22.6%が「塩味を強く感じるようになった」と報告しました。
統計解析の結果、甘味を強く感じるようになった人は、食欲減少、満腹感増加、食欲抑制と有意に関連していることがわかりました。塩味の感受性上昇も満腹感増加と関連していました。
味覚変化が治療効果に寄与する可能性
この研究は、GLP-1受容体作動薬が「味覚の変化」を介して食欲抑制に寄与している可能性を裏付けています。
一方で、味覚の変化が体重減少そのものと直接結びつく証拠は得られませんでした。研究者らは「短期的には食行動に影響しても、体重減少効果は他の要因も関わっている可能性がある」と指摘しています。
マンジャロの使用方法と用量調整
マンジャロは週1回の皮下注射で使用します。
基本的な投与方法
注射部位は腹部や太もも、上腕で、毎回場所を変えて皮下脂肪への負担を軽減します。同じ曜日に注射することで、投与スケジュールを管理しやすくなります。
用量のステップアップ
マンジャロには6段階の用量があります。
最初は導入用量として2.5mgを週1回、4週間投与してスタートします。安全に体を慣らした後、維持用量として5mgに増量します。血糖コントロールが不十分な場合は、2.5mgずつを4週間ごとに増量し、最大15mg/週まで調整可能です。

この段階的な増量により、副作用を最小限に抑えながら、個々の患者さんに最適な用量を見つけることができます。
副作用と安全性について
マンジャロの使用にあたっては、副作用のリスクを理解しておく必要があります。
主な副作用
最も多い副作用は消化器症状です。
悪心、嘔吐、下痢、便秘などが報告されていますが、その大部分は一時的な症状です。多くの場合、体が薬に慣れるにつれて症状は軽減していきます。
とはいえ、文献上では90%の方で副作用は起きていません。実際に、処方していても、食事を取らなくても大丈夫になったというだけで、特段副作用として認識するほどではない方がほとんどです。(Gastrointestinal adverse events and weight reduction in people with type 2 diabetes treated with tirzepatide in the SURPASS clinical trials)
重大な副作用のリスク
稀ではありますが、膵炎、腎機能悪化、胆嚢障害、低血糖(特にインスリンやSU薬との併用時)、視力変化などの重大な副作用が起こる可能性があります。
甲状腺髄様癌の既往がある方や膵炎の既往がある方には投与が推奨されていません。
医療機関での適切な管理の重要性
マンジャロは、その食欲減退効果などで、2型糖尿病治療薬、肥満治療の治療薬として用いられています。肥満治療としては、全く同じ薬ですが、ゼップバウンドという名前で保険適応が通っています。保険での要件はかなり厳しく、ほとんどの肥満の方は保険外診療を検討していただくことになります。
まとめ
マンジャロ(チルゼパチド)の食欲抑制の仕組みについて解説しました。
GIPとGLP-1の両方に作用する二重作動薬として、脳の食欲中枢への作用、胃排出遅延作用、外発的摂食行動の抑制など、複数のメカニズムを通じて食欲をコントロールします。味覚の変化も食欲抑制に寄与している可能性が示唆されています。
週1回の注射で使用でき、段階的な用量調整により個々の患者さんに最適な治療が可能です。ただし、消化器症状をはじめとする副作用のリスクもあるため、医師の管理のもとで安全に使用することが重要です。
当院では、肥満を伴う患者さんに対して、マンジャロを含むGLP-1受容体作動薬による治療を行っています。食欲抑制の仕組みを理解した上で、適切な治療選択を一緒に考えていきましょう。
治療に関するご相談は、LINE/WEB相談または予約フォームからお気軽にお問い合わせください。お電話でのご相談も承っております(TEL)。

【作成・監修】
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック
院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医、MPH(公衆衛生大学院))
MPHは予防医学、疫学、統計のスペシャリストの学位です。大腸がんの予防的なデータを実践するスペシャリストといえます。