大腸がんは日本人の罹患率が最も高いがんであり、早期発見・早期治療が何よりも重要です。近年の医療技術の進歩により、内視鏡検査の精度は飛躍的に向上し、より早期のがん発見が可能になってきました。特に最新技術を活用した内視鏡検査は、大腸がんの早期発見と予防において非常に大きな役割を果たしています。
この記事では、大腸がん早期発見のカギとなる最新の内視鏡技術と、検査の重要性について詳しくご紹介します。大腸がん検診をためらっている方や、より安全で精度の高い検査を受けたいとお考えの方に、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
目次
大腸がんの現状と早期発見の重要性
大腸がんは日本において非常に深刻な問題となっています。
2023年の統計によると、国内でがんにより亡くなった人は382,504人で、そのうち大腸がんは全体の12.6%(男性)”/“15.6%(女性)を占めています。がん死亡原因の第2位、2021年統計での罹患数では第1位という非常に高い数字です。この傾向は近年増加しており、早急な対策が求められています。
しかし、大腸がんは早期に発見できれば治療効果が高いがんでもあります。早期大腸がんを治療することで、がんのない方と同等の寿命を享受できることが医学的に証明されています。
大腸がんの特徴として、初期段階ではほとんど症状が現れないことが挙げられます。そのため、症状が出てから病院を受診すると、すでに進行している場合が少なくありません。早期発見のためには、症状がなくても便潜血検査陽性などの場合に大腸内視鏡検査を受けることが非常に重要です。
どうですか?あなたは定期的な検査を受けていますか?
苦痛の少ない内視鏡検査への取り組み
「大腸内視鏡検査は痛そう」というイメージから検査をためらう方は少なくありません。
しかし、現在の内視鏡検査は患者さんの負担を最小限に抑えるための様々な工夫が施されています。特に鎮静剤を用いた検査は、半分眠ったようなリラックスした状態で検査を受けられるため、痛みや不安を大幅に軽減できます。検査後は専用のリカバリールームでゆっくり休むことができ、プライバシーにも十分配慮されています。
患者さんの体質や希望に合わせて選べる下剤も複数用意されており、過去に下剤服用でつらい思いをした方でも安心して検査を受けられるようになっています。

また、無送気軸保持短縮法と呼ばれる検査方法も注目されています。従来の大腸内視鏡検査では、曲がりくねった状態の大腸を正確に把握するために、空気を注入しながら検査チューブを挿入していました。この方法ではお腹に空気が溜まるため、張りや痛みを感じやすく、腸粘膜に負担がかかります。
無送気軸保持短縮法は、大腸の走行を邪魔することなくチューブが挿入できる検査方法で、安全性が高く、患者さんの苦痛が少なく済みます。さらに、患者さんの腸の形状や状態に合わせて、チューブが細い細径内視鏡や、腸粘膜を拡大観察できる拡大内視鏡などを使い分けることで、より負担の少ない検査が可能になっています。
内視鏡検査を受けたことがない方は、こうした最新の取り組みを知ることで、検査への不安が少し和らぐのではないでしょうか?
AI技術による大腸がん診断の革新
AI技術の導入は、大腸内視鏡検査における最も画期的な進歩の一つです。
富士フイルムやオリンパスなどの企業は、消化器系がんの症例をディープラーニングしたAIによる内視鏡AI診断支援技術を開発しています。これらのシステムは、内視鏡検査中にAIがリアルタイムで画像を解析し、医師が診断時に見るモニターに「がんの疑いがある部分」を表示することで診断をサポートします。
AIによるサポートの具体的なメリットは以下の通りです。
- リアルタイムでの病変検出:検査中に異常が検出されると、システムは即座に視覚的・聴覚的な警告を出します
- 高精度な診断支援:AIが病変の性質(腫瘍性・非腫瘍性)を判断し、不必要な生検を減らせます
- 見落とし防止機能:人間の目では見逃しやすい微小な変化も捉えることができます
これらのAI技術は、医師の診断を置き換えるものではなく、あくまでサポートするものです。経験豊富な医師の診断にAIの高い検出能力が加わることで、「医師×AI」という新しい診断スタイルが確立されつつあります。これにより、がんの早期発見率が向上し、患者さんにより大きな安心感を提供できるようになっています。当然、見えない病変をAIが評価することができないため、しっかりと観察する技術が重要となります。AIの効果を最大化するには、しっかり観察することが最も重要と言えます。2024年のアメリカのガイドライン改定では8分の観察が推奨されています。これは、観察時間が長いほうが大腸ポリープの発見率が高く、大腸がんによる死亡リスクを減らすことが証明されているためです。
AIを活用した内視鏡検査の普及が進めば、大腸がんの早期発見・早期治療の機会が増えることが期待されています。
日帰りポリープ切除の有効性
大腸内視鏡検査の大きなメリットの一つは、検査中にポリープが見つかった場合、その場で切除できることです。
一般的に大腸内視鏡検査中にポリープが発見される確率は530%と言われています。従来であれば、ポリープが見つかった場合、再度来院して切除する必要がありましたが、現在では入院が不要な場合は日帰りでポリープ切除が可能になっています。
これは患者さんにとって大きなメリットです。仕事や家庭の都合で何度も通院することが難しい方でも、1回の来院で検査と治療を完了できるからです。

ポリープを切除することの重要性は非常に高く、ポリープのない状態を作ることで、大腸がんを約86%予防できることが医学的に示されています。大腸ポリープは前がん病変であり、放置すると数年から十数年かけてがん化する可能性があります。そのため、早期に発見し切除することが大腸がん予防の鍵となります。
最新の内視鏡技術では、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という方法も普及しています。これは従来のEMR(内視鏡的粘膜切除術)では一括切除困難であった大きな病変や瘢痕含有病変に対して行われる治療法です。
国立がん研究センターなどの研究チームが行った前向きコホート研究では、2cm以上の早期大腸がんに対するESDの長期的な治療結果が良好であることが確認されました。この研究結果から、2cm以上であっても転移リスクの少ない早期大腸がんであれば、ESDが治療の第一選択となる可能性が示されています。
大腸内視鏡検査は単なる検査ではなく、がん予防の積極的な手段でもあるのです。あなたも40歳を過ぎたら、一度は検査を受けてみてはいかがでしょうか?
内視鏡検査を受ける際の注意点と準備
大腸内視鏡検査を受ける際には、適切な準備が必要です。
検査の精度を高めるためには、腸内をきれいにしておくことが非常に重要です。検査前日には特別な検査食を摂取します。また、検査当日は食事を控え、水やお茶などの水分のみ摂取可能です。
最も大変なのは下剤の服用かもしれません。検査の3~5時間前から下剤を飲み、腸内をきれいにする必要があります。しかし、現在では患者さんの体質や希望に合わせて選べる下剤が複数用意されており、過去に下剤服用で辛い思いをした方でも比較的楽に準備ができるようになっています。
検査当日は、診察券、保険証、お薬手帳を持参しましょう。
また、鎮静剤を使用した検査の場合、検査後は車の運転ができません。公共交通機関を利用するか、家族に送迎をお願いするなどの対応が必要です。
大腸内視鏡検査は命を守る大切な一歩です。少しの勇気と準備で、あなたの未来が大きく変わるかもしれません。
検査後は、医師から結果の説明を受け、必要に応じて今後の治療計画についても話し合います。ポリープを切除した場合は、病理検査の結果説明のために再度来院が必要な場合もあります。
検査の流れを事前に理解しておくことで、不安を軽減し、スムーズに検査を受けることができます。何か不明点があれば、遠慮なく医師や看護師に質問してください。
まとめ:大腸がん予防のために今できること
大腸がんは日本人の罹患率が最も高いがんですが、早期発見・早期治療により完治の可能性が高いがんでもあります。最新技術を活用した内視鏡検査は、大腸がんの早期発見と予防において非常に重要な役割を果たしています。
AI技術の導入により検査の精度は向上し、鎮静剤の使用や無送気軸保持短縮法の採用により患者さんの負担も大幅に軽減されています。また、日帰りポリープ切除が可能になったことで、1回の来院で検査と治療を完了できるようになりました。
40歳を過ぎたら1度は大腸カメラを、また、便潜血検査陽性などの場合には症状がなくとも大腸カメラ検査を受けることをお勧めします。若い方であっても、便秘や下痢が続く、腹痛や腹部の張りが続く、便が細くなった、急な体重減少がある、黒い便や血がついた便が出る、ポリープを切除したことがある、便潜血検査が陽性だった、家族にポリープやがんの人がいるといった症状や状況がある方は、早めに医療機関に相談することをお勧めします。
大腸内視鏡検査は、単なる検査ではなく、がん予防の積極的な手段です。少しの勇気と準備で、あなたの健康と未来を守ることができます。ぜひ、定期的な検査を生活習慣の一部として取り入れてみてください。
あなたの健康は、あなた自身で守るものです。早期発見・早期治療が、大腸がんから身を守る最大の武器であることを忘れないでください。
