目次
1.大腸内視鏡検査とは〜検査の意義と重要性
大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を挿入して大腸全体の様子を直接観察する検査です。大腸がんやポリープ、炎症性疾患などを発見するための重要な検査方法として広く普及しています。
大腸がんは日本人の罹患数が最も多いがんであり、死亡数も2位と非常に深刻な疾患です。しかし、早期発見できればがんを発症していない人と同程度の寿命をえることができる病気です
大腸がんの多くはポリープと呼ばれる良性の腫瘍からゆっくりと進行するため、がんになる前のポリープの段階や早期段階で発見することができれば、治療も比較的容易です。
問題は、大腸がんが進行するまでほとんど自覚症状がないことです。そのため、40歳を過ぎたら定期的な大腸がん検診(便潜血検査)を受け、55歳を過ぎたら一度は大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。
どうでしょうか?あなたも大腸内視鏡検査の必要性を感じ始めましたか?
しかし、多くの方が「検査は痛いのではないか」「時間がどれくらいかかるのか」「準備は大変なのでは」といった不安を抱えています。特に、鎮静剤を使った場合など、お迎えの時間があるからある程度の目安を知りたいという意見はもっともなことだと思います。この記事では、消化器内視鏡専門医として長年経験を積んできた私が、大腸内視鏡検査の所要時間や流れについて詳しく解説します。
2.大腸内視鏡検査の所要時間〜全体像を把握しよう
「大腸内視鏡検査にはどれくらいの時間がかかるの?」これは患者さんから最もよく受ける質問の一つです。
結論からお伝えすると、検査自体は何も問題がなければ15-30分程度で終わります。意外と短いと感じる方も多いのではないでしょうか。
ただし、これは検査そのものの時間だけであり、準備から終了後の休憩までを含めると、合計で6時間程度かかると考えておくべきです。特に午後から検査を行う場合、検査当日は、一日がかりの予定を立てておくことをお勧めします。
大腸内視鏡検査の所要時間を詳しく見ていきましょう。
腸内をきれいにする時間:3〜4時間
大腸内視鏡検査では、腸内をきれいにしておく必要があります。腸内に便が残っていると、病変を見落とす可能性があるためです。
腸管洗浄液(下剤)を約2時間かけて2リットル程度飲み、その後、腸内がきれいになるまでに2-3時間かかります。この間に10回程度の排便があるのが一般的です。ご自宅で下剤を内服する場合は、ある程度トイレへ行くのが落ち着いてからご自宅を出発することになります。排便が終わるのに、下剤内服終了後30分程度かかります。
便秘がひどい方や腸管洗浄液の効きが悪い方は、追加で洗浄液を飲む必要があることもあるため、時間に余裕を持っておくことが大切です。
また、指定された下剤がどうしても飲めない方もいらっしゃいます。そういった場合、当院のような経験豊富な施設ではいくつかの下剤を提案できます。腸管洗浄液の変更なども含めて考えると、時間ギリギリで飲み始めるのはおすすめしません。
これらのことを考えると、ご自宅出発の4時間前から下剤を内服開始するのが安心です。
逆に、院内に下剤を飲む場合は、こういった心配がない点がメリットではありますが、検査の順番についてはきれいになった順に呼ばれることになるため、検査開始時間が読みにくい点がデメリットです。
検査自体の所要時間:15-30分
実際の大腸内視鏡検査は、何も問題がなければ15-30分程度で終了します。
挿入時間:熟練の医師が行えば、平均的には3-5分です。しかしながら、大腸は個人差が大きく、30分程度かかることもあります。
観察時間:一旦大腸の奥までカメラを挿入して引き抜きながら観察します。2024年の米国消化器病学会のガイドラインでは、8分以上かけて観察することが求められており、十分に時間をかけて観察します。
[大腸内視鏡の観察時間が検査の質を決める]
処置時間:大腸ポリープがあった場合、切除に3-10分かかります。2024年の米国消化器病学会のガイドラインでは、42%以上の確率で大腸ポリープを見つけるように検査することが求められており、半分ぐらいの方はポリープがあると思ってください。
【大腸ポリープが見つかる確率】
鎮静剤からの回復時間:30分
鎮静剤を用いた場合は30分程度休んでいただく必要があります。鎮静剤の効果が減弱するために必要な時間です。
当院では、アネレムという作用時間の短い薬剤を用いていますが、施設によってはもっと長いかもしれません。
【唯一保険収載された内視鏡鎮静剤アネレムについて】
結果説明、会計の所要時間:30-60分
検査自体の時間ではありませんが、検査後、結果のご説明と会計の待ち時間があります。
3.大腸内視鏡検査前の準備〜スムーズな検査のために
大腸内視鏡検査を受ける際、最も重要なのが事前の準備です。腸内をきれいにしておかないと、正確な検査ができないだけでなく、検査時間が長引いたり、再検査が必要になったりすることもあります。
私の経験では、事前準備をしっかり行った患者さんほど、検査がスムーズに進み、苦痛も少なく済むことが多いです。指示された準備を行わず、十分な検査ができないこともあります。しっかりと指示された通り準備を行いましょう。
検査前日の準備
検査前日は、食事内容に注意が必要です。消化の良い軽めの食事を心がけ、食物繊維を多く含む食品は避けましょう。食物繊維は消化されにくく、翌日まで腸内に残りやすいためです。
避けるべき食品には、野菜全般(特に青野菜や根菜類)、豆類、海藻、きのこ、こんにゃく、果物、雑穀などがあります。
食べるものがわからないというご意見も多く、当院では基本的に検査食をご提供しています。
夕食は早めに済ませるようにしましょう。また、日常的に便秘がひどい方は、医師の指示に従って、夕食後に下剤を服用することもあります。
当院では、当日の下剤負担を減らすために、便秘の具合によっては数日前から
前日は早めに就寝し、十分な休息を取ることも大切です。
検査当日の準備
検査当日は朝食を摂らず、指示された時間に腸管洗浄液の摂取を始めます。2リットル程度の洗浄液を約2時間かけて飲み、腸内をきれいにします。下剤によって内服量や味が異なります。当院では5種類の下剤を用いております。以下の記事で下剤の種類についても解説しています。
【大腸内視鏡検査の前処置・下剤を楽にするための工夫】
洗浄液を飲み始めると、1時間程度で排便が始まり、最終的には水様便(透明な液体のような便)になれば準備完了です。
通常の下剤と違い、腸管洗浄液による強い腹痛が起きることは少ないですが、お腹が張ったような不快感を感じることはあります。
薬について心配される方もいらっしゃいます。薬剤を自己判断で中止することは大変危険です。特に、抗血小板薬、抗凝固薬のような「血液をサラサラにする薬」と呼ばれる薬剤は、中止することで心筋梗塞、脳梗塞などのリスクにつながります。一方で、糖尿病薬については、低血糖のリスクがあるため基本的には中止している医療機関が多いです。いずれにせよ医療機関にご相談ください。
4.大腸内視鏡検査の実際の流れ〜検査室に入ってから終了まで
実際の検査がどのように進むのか、詳しく見ていきましょう。検査の流れを知っておくことで、不安が軽減されるはずです。
私は年間1000件以上の大腸内視鏡検査を担当していますが、多くの患者さんが「思ったより楽だった」と言ってくださいます。
検査室に入る前の準備
検査室に入る前に、検査着に着替えます。着替えやすい服装で来院することをお勧めします。
検査中の流れ
検査室に入ると、検査台に左下横向きになり、膝を軽く曲げた姿勢をとります。リラックスした状態が最も検査がスムーズに進むので、深呼吸をして力を抜くようにしましょう。
鎮静剤を使用する場合は、点滴から薬剤を注入します。多くの場合、数十秒で効果が現れ、うとうとした状態になります。この状態では痛みをほとんど感じず、検査が終わった後も検査中の記憶があいまいになることが多いです。
実際に検査終了後に、「まだ始まらないの?」と尋ねてくる患者さんに対して、「もう終わりましたよ」と答えることもしばしばです。
内視鏡を挿入する際に多少の圧迫感を感じることがありますが、医師は患者さんの様子を見ながら慎重に進めていきます。検査中は腸を広げるためにガスを入れるので、お腹が張った感じがすることがあります。
医師はモニターに映る腸内の様子を観察しながら、異常がないかを確認していきます。ポリープが見つかった場合は、その場で切除することもあります。
検査後のケア
検査が終わったら、横になって少し休みます。鎮静剤を使用した場合は、効果が切れるまで30分程度安静にします。
意識がはっきりとしてきたら、医師から検査結果の説明を受けます。ポリープを切除した場合や組織検査を行った場合は、その結果が出るまで2週間程度かかります。
検査後はおなかが張ることがあるので、ガスをどんどん出すようにしましょう。当院のように、二酸化炭素を用いた検査を行っている施設では、このお腹の張り感をかなり軽減できます。
食事は検査後1時間程度経過してから可能ですが、ポリープ切除などの処置を行った場合は、医師の指示に従ってください。
5.大腸内視鏡検査で見つかる病変と処置
大腸内視鏡検査の大きな利点は、病変を発見するだけでなく、その場で治療も行えることです。特に大腸ポリープは、将来的に大腸がんになる可能性があるため、見つけたらその場で切除することが一般的です。大腸内視鏡検査以外の大腸を調べる方法、CTやカプセル内視鏡検査では、大腸ポリープを見つけてもその場で切除することができません。 d
2024年の米国消化器病学会のガイドラインでは、に何らかのポリープを47%以上で見つかるようなクオリティーで検査することが求められています。便潜血検査陽性の場合は50%以上でポリープが見つかるような検査を行うことが推奨されています。早期発見・早期治療が可能なのは、大腸内視鏡検査の大きなメリットと言えるでしょう。
よく見つかる病変
大腸内視鏡検査でよく見つかる病変には、以下のようなものがあります。
まず最も多いのが大腸ポリープです。ポリープは大腸の粘膜から突出した腫瘍で、多くは良性ですが、一部は時間の経過とともに悪性化(がん化)する可能性があります。Japan Polyp Studyという国内で行われた臨床研究の長期フォローアップデータでは、大腸ポリープを切除することで86%の大腸がんを抑制できることが知られています。また、大腸内視鏡検査でポリープの発見率が高いほど、その後の大腸がん死亡率が低いことが知られています。
【大腸ポリープ切除で大腸がん予防】
次に多いのが大腸憩室です。これは腸の壁が外側に向かって袋状に突出したもので、それ自体は良性ですが、炎症を起こすと憩室炎として腹痛や発熱の原因になることがあります。日本人の30%に認められる疾患で、症状がなければ治療の対象になるものではありません。
その他、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)、大腸がん、虚血性大腸炎などが見つかることもあります。
その場で行える処置
大腸内視鏡検査中に見つかった病変に対して、その場で行える主な処置は以下の通りです。
ポリープ切除は最も一般的な処置です。内視鏡の先端に付いたスネアと呼ばれるワイヤーループでポリープを絞め切除します。大きさや形状によって、通電せずに焼き切るCold Snear Polypectomyや通電を伴うEMR(内視鏡的粘膜切除術)などの方法が選択されます。
また、組織検査(生検)も重要な処置の一つです。病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べることで、良性か悪性かを判断します。
これらの処置は基本的に痛みを伴わず、鎮静剤の効果もあって患者さんはほとんど気づかないことが多いです。
処置後の注意点
ポリープ切除などの処置を行った場合は、通常の検査よりも注意が必要です。
まず、処置後の出血リスクを考慮して、当日の激しい運動は避け、入浴はシャワー程度にとどめるよう指導しています。稀に処置後に出血や腹痛が強く出ることがありますので、そのような症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡するようにしてください。
ポリープの大きさや数によっては、入院が必要になることもあります。事前に医師と相談し、スケジュールに余裕を持たせておくことをお勧めします。
まとめ〜安心して大腸内視鏡検査を受けるために
大腸内視鏡検査は、大腸がんの早期発見・早期治療に非常に有効な検査です。検査自体は15-20分程度と短時間ですが、準備や検査後の休憩を含めると4〜6時間程度かかります。
検査前の腸管洗浄(下剤の服用)が最も大変な部分ですが、これをしっかり行うことで検査がスムーズに進み、病変の見落としも防げます。
大腸内視鏡検査の最大のメリットは、病変を発見するだけでなく、その場でポリープ切除などの治療も行えることです。これにより、将来的な大腸がんのリスクを減らすことができます。
40歳を過ぎたら定期的な大腸がん検診(便潜血検査)を受け、55歳を過ぎたら一度は大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。特に、便潜血検査で陽性が出た方や、大腸がんの家族歴がある方は、積極的に大腸内視鏡検査を検討してください。
検査に不安がある方は、事前に医師に相談することで、あなたに最適な検査方法を選択できます。当院では患者さんの不安を少しでも軽減できるよう、丁寧な説明と最新の設備・技術で対応しています。
大腸内視鏡検査は「怖い」「痛い」というイメージがあるかもしれませんが、現代の医療技術では、そうした不安を大幅に軽減できるようになっています。ぜひ勇気を出して検査を受け、あなたの健康を守りましょう。
詳しい情報や不安なことがあれば、辻仲つくば 胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニックまでお気軽にご相談ください。経験豊富な専門医が、あなたの健康をサポートいたします。