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痔の手術後の回復期間を知っておくことの重要性
痔の手術を受けることになった患者さんが最も気にされるのは、「いつから普通の生活に戻れるのか」という点です。
手術自体の不安もありますが、その後の回復期間についての正確な情報を知ることで、心の準備や生活の調整がしやすくなります。
痔の手術後の回復期間は、手術の種類や個人の体質によって大きく異なります。
適切な知識を持っておくことで、無理をせず、かつ必要以上に心配することなく回復に専念できるのです。
消化器外科医として多くの痔の手術を担当してきた経験から言えることは、回復期間に関する正しい知識を持つことが、術後の不安軽減と順調な回復につながるということです。
この記事では、痔の手術後の回復期間について、専門医の立場から詳しく解説していきます。
1.痔の手術後の基本的な回復期間
痔の手術後の回復期間は、手術の種類によって異なります。
肛門周囲膿瘍、血栓性外痔核などのその場で処置の終わるような手術、注射だけで処置の終わるALTA(ジオン注射)は別として、一般的に、痔核(いぼ痔)の手術後は3日から1週間程度で痛みが軽減し、多くの方が日常生活に戻れるようになります。
概ね、手術後1週間で痛みのピークが半減し、その後の1週間でほとんど痛みがなくなるというパターンが多いようです。
一方で、傷の治りについては、術後1-2ヶ月程度はしみ出しが続くことが多いです。傷が完全に塞がるには2-3ヶ月かかることが一般的です。
胃がんや大腸がんなどの開腹手術であっても、通常は1週間もすれば傷がふさがります。一方で、痔の手術の場合は傷が塞がるのに時間がかかるのはなぜでしょうか?
肛門手術は、傷を縫い閉じると感染リスクが増えるため、表面だけ傷が塞がってしまわないようにしているため、通常の手術の傷が治るよりも時間がかかります。
ただし、これはあくまで目安であり、完全に元通りになるまでには個人差があります。傷が治っても、つっぱった感じなどの違和感はしばらく残ることがあります。
弾力性が出て本来の肛門のようになるには数カ月かかることも珍しくありません。
2.痔の種類別・手術方法別の回復期間
痔には主に「いぼ痔(内痔核・外痔核)」「切れ痔(裂肛)」「痔ろう」の3種類があります。それぞれの手術方法と回復期間について見ていきましょう。
いぼ痔(内痔核・外痔核)の手術後
いぼ痔の手術は、痔核を切除する方法が一般的です。内痔核は肛門の内側にできる痔で、外痔核は肛門の外側にできる痔です。
手術が必要ないぼ痔の多くは内外痔核です。内外痔核の場合は皮膚を同時に切除する必要があります。
中のいぼ痔の部分は痛覚がないため痛くないのですが、この皮膚の切除の部分が痛みの原因となります。
回復期間の目安は以下の通りです。
- 痛みのピーク:手術後2〜3日
- 痛みの軽減:1週間程度
- 日常生活復帰:10日〜2週間
- 完全治癒:約2ヶ月
傷が小さいと、排便の際に便が傷の中に残ってしまい、感染の原因になります。こうなると難治創といい、傷の治りが逆に悪くなってしまうことがあります。
そのため、排便の際に肛門の中の傷に便が滞らないように、あえて大きく外側の皮膚に傷を作る、つまり汚物が滞らないように出口を創っておくのです。これをドレナージといいます。
切れ痔(裂肛)の手術後
切れ痔の手術は、固くなった切れ痔の部分を切り取る裂肛ドレナージに加えて、 肛門の括約筋の一部を広がりやすくする側方内括約筋切開術(LIS)が一般的です。
この手術は肛門を広げるような大きな手術と比べて比較的侵襲が少なく、回復も早い傾向があります。
回復期間の目安は以下の通りです。
- 痛みのピーク:手術後1〜2日
- 痛みの軽減:1週間程度
- 日常生活復帰:2週間程度
- 完全治癒:約2ヶ月

痔ろうの手術後
痔ろうの手術は、瘻管(膿の通り道)を切り開いて掻き出す方法(開放手術)や、瘻管を切除して傷を閉じる方法(括約筋温存手術)などがあります。
特に複雑な痔ろうの場合は、回復期間が長くなることがあります。
複雑痔瘻の場合は長期の処置が必要となります。
複雑痔瘻でない場合の回復期間の目安は以下の通りです。
- 痛みのピーク:手術後2~3日
- 痛みの軽減:1週間
- 日常生活復帰:2週間
- 完全治癒:3ヶ月(痔ろうの複雑さによる)
痔ろうの手術後は、傷口が完全に塞がるまでに時間がかかることがあります。
特に開放手術の場合は、傷口が徐々に内側から盛り上がるように治癒していくため、完全に治るまでに数ヶ月かかることもあります。
3.手術後の痛みの経過と対処法
痔の手術後の痛みは多くの患者さんが気にされる点です。
手術直後は麻酔の効果が2~3時間持続するため、その間は痛みを感じません。しかし、麻酔が切れると徐々に痛みが出てきます。
現在の手術技術は進歩しており、昔と違って耐えられないほどの痛みではないことが多いです。
また、鎮痛薬についての考えも以前と異なっています。症状が軽微であっても鎮痛薬を用いる事をお勧めしています。
日本人医師が鎮痛薬を勧めないことについて、欧米から強い批判を受けています。術後、積極的に鎮痛薬を使用しましょう。
術後の痛みの時期別特徴
術後の痛みは時期によって特徴が異なります。
手術直後〜3日目は最も痛みが強い時期です。麻酔が切れると痛みを感じ始めます。
4日目〜1週間は徐々に痛みが軽減する時期です。
多くの患者さんは3日から1週間程度で痛みが軽くなり始めます。ただし、初めての排便時には痛みを強く感じることがあります。
排便時の痛みを恐れて便を我慢すると便秘になり、かえって痛みが強くなるので注意が必要です。
1週間〜2週間になると日常生活に戻れる時期です。手術から1週間〜10日程度経過すると、傷口からの出血も減少し、痛みも大幅に軽減します。
この時期になると、多くの方が通常の日常生活に戻れるようになります。デスクワークなどの軽作業であれば、復帰可能な段階です。
痛みを和らげるための対処法
痛みを和らげるためには、以下の対処法が効果的です。
- 横向きで膝を曲げ、肛門に力を入れないようにして横になる
- 座浴(お尻浴)を行う(1回10分程度、1日2〜3回)
- 長時間の座位を避ける(必要な場合は専用クッションを使用)
特に座浴は、血行を促進し、傷の治りを早める効果があります。
便器の上に洗面器を置き、ぬるま湯を入れてつかるという方法が一般的です。
ただし、熱すぎるお湯は逆に痛みを増強させることがあるので、40度程度のぬるま湯を使用しましょう。
4.日常生活への復帰時期〜いつから何ができる?
痔の手術後、日常生活にいつから復帰できるのかは多くの方が気にされる点です。一般的な目安として、以下のようなスケジュールが考えられます。
手術直後から数日間
術後、数日は強い痛みがあります。痛みの感じ方は人それぞれですが、大体2-3日で改善してきます。人によっては1週間くらい痛みが続く方もいます。
この期間は、十分に休息をとり、無理な動きは避けましょう。横向きで寝ることで、肛門部への圧迫を避けることができます。
また、処方された薬をきちんと服用し、痛みをコントロールすることが大切です。
手術後1~2週間
痛みが軽減してくると、徐々に日常生活に戻れるようになります。具体的な目安としては:
- 入浴:手術後2〜3日から可能(座浴は推奨)
- デスクワーク:手術後4〜10日から可能
- 軽い家事:手術後1週間程度から可能
- 運転:手術後1〜2週間から可能
- 立ち仕事:手術後2週間程度から可能
- 軽いスポーツ:手術後3〜4週間から可能
- 激しいスポーツ・重労働:手術後1ヶ月以上経過してから
ただし、これはあくまで目安であり、個人差があります。無理は禁物です。痛みや違和感がある場合は、活動を控えるようにしましょう。また、医師の指示に従うことが最も重要です。
特に座る姿勢は肛門部に負担がかかるため、長時間の座位は避けた方が良いでしょう。必要な場合は、ドーナツ型のクッションを使用することで、肛門部への圧迫を軽減できます。
術後すぐに仕事をする予定を立てる方もいらっしゃいますが、術後数日は痛みがあるので、1週間程度は予定を入れないことをおすすめします。
5.手術後の創部管理と注意点
痔の手術後の傷(創部)の管理は、回復を早めるために非常に重要です。適切なケアを行うことで、感染を防ぎ、治癒を促進することができます。
創部の洗浄と処置
排便後は、創部を清潔に保つことが重要です。以下の方法が推奨されます:
- 洗っても、濡れたままだとかえって傷によくないので、しっかり乾かす
- 指示があれば、消毒液や軟膏を適切に使用する
創部からは、排便時に紙につく程度の出血をみることがありますが、これは開放してある傷口からの出血なので問題ありません。
傷の治りとともに止まってきます。出血が多く、かたまりとして出たり、下痢するように出たりする場合は、医師に相談してください。
また、出血ではなく浸出液の染み出しが続くことがあります。2ヶ月程度は続くことが普通なので、心配しないでください。
排便コントロール
排便は創部の治癒に大きく影響します。以下のポイントに注意しましょう:
- 便秘や下痢は傷口を広げたり刺激したりするので避ける
- 排便時は肛門が十分開くように足を広げ、両手でお尻を引っ張り上げる姿勢が良い
- 排便を我慢すると便秘になり、かえって痛みが強くなるので注意
- 必要に応じて、医師から便通調整のための薬が処方されることもある
女性の場合、排尿時にも注意が必要です。カラダを充分に前に倒して行うと、尿が傷口にかかりにくくなり、しみることを防げます。
6.手術後の食事と生活習慣の注意点
痔の手術後の回復を促進し、再発を防ぐためには、適切な食事と生活習慣が重要です。
食事の注意点
手術後の食事で特に注意すべき点は、便通を整えることです。以下のポイントを意識しましょう:
- 食物繊維を十分に摂取する(野菜、果物、全粒穀物など)
- 水分をしっかり摂る(1日2リットル程度)
- 刺激物(アルコール、辛い食べ物、カフェイン)は控えめにする
- 規則正しい食事時間を心がける
特に食物繊維は便の硬さを適度に保ち、排便をスムーズにする効果があります。
ただし、手術直後に急に食物繊維を増やすと、ガスが溜まったり腹部膨満感が出たりすることがあるので、徐々に増やしていくことをお勧めします。
生活習慣の注意点
日常生活では、以下の点に注意することで回復を早め、再発を防ぐことができます:
- 長時間の座位を避ける(1時間に一度は立ち上がる)
- 排便を我慢しない(便意を感じたらなるべく早くトイレに行く)
- トイレでの長居(特にスマホ使用)を避ける
- 適度な運動を心がける(ウォーキングなど)
- 肛門に力が入るような重い物の持ち上げは避ける
特にデスクワークが多い方は、長時間同じ姿勢でいることで肛門周囲の血流が悪くなり、回復が遅れることがあります。定期的に立ち上がって軽く体を動かすことをお勧めします。
7.手術後の通院と経過観察
手術後の定期的な通院と経過観察は、順調な回復を確認するために重要です。一般的な通院スケジュールと、医師に相談すべき症状について解説します。
通院スケジュールの目安
通常、以下のようなスケジュールで通院することが多いです:
- 術後7日目:傷の具合やご自宅での生活の問題のチェック(当院では1週間分の鎮痛薬などを処方しています)
- その後2~4週間に1度の診察
- 完全治癒まで(約2ヶ月):定期的な経過観察
入院手術の場合は、入院中に毎日診察があります。日帰り手術の場合は、手術7日目の診察が重要です。その後は傷の治り具合によって、通院間隔が調整されます。
医師に相談すべき症状
以下のような症状がある場合は、すぐに医師に相談しましょう:
- 大量の出血(鮮血が便器に溜まるほど)
- 強い痛みが続く、または急に痛みが強くなる
- 38度以上の発熱
- 創部の異常な腫れや膿
- 排尿困難
これらの症状は、感染や出血などの合併症の可能性を示唆しています。早めに対処することで、重症化を防ぐことができます。
8.痔の再発を防ぐための長期的な対策
痔の手術後、再発を防ぐための長期的な対策も重要です。以下のポイントを日常生活に取り入れることで、再発リスクを減らすことができます。
食生活の改善
便通を整えることが最も重要です:
- 食物繊維を十分に摂取する習慣を続ける
- 水分をしっかり摂る習慣を身につける
- 規則正しい食事時間を心がける
- 過度の刺激物(アルコール、辛い食べ物)を控える
排便習慣の改善
健康的な排便習慣を身につけましょう:
- 便意を感じたらすぐにトイレに行く(我慢しない)
- 排便時に強くいきまない
- トイレでの長居を避ける
- 排便後は優しく拭き、必要に応じて洗浄する
生活習慣の改善
日常生活での注意点:
- 長時間の座位を避ける
- 適度な運動を継続する(ウォーキング、水泳など)
- 肥満を避ける(過度の体重は肛門部への圧迫を増す)
- 重い物の持ち上げを避ける
- ストレスを溜めないよう心がける
これらの対策は、痔の再発防止だけでなく、全身の健康維持にも役立ちます。特に、規則正しい生活と適度な運動は、腸の働きを活発にし、便通を整える効果があります。
まとめ:痔の手術後の回復を早めるポイント
痔の手術後の回復期間は、手術の種類や個人差によって異なりますが、一般的には以下のような経過をたどります:
- 痛みのピーク:手術後2〜3日
- 痛みの軽減:1週間程度
- 日常生活復帰:10日〜2週間
- 完全治癒:約1ヶ月(痔の種類によっては2〜3ヶ月)
回復を早めるためには、以下のポイントを意識しましょう:
- 処方された薬をきちんと服用する
- 創部を清潔に保ち、適切なケアを行う
- 座浴を定期的に行う
- 便通を整える食事と水分摂取を心がける
- 無理をせず、徐々に活動量を増やす
- 定期的な通院と経過観察を欠かさない
痔の手術は、適切な術後ケアと生活習慣の改善によって、高い確率で症状の改善が期待できます。回復期間中は焦らず、医師の指示に従って過ごすことが大切です。
痔の症状でお悩みの方や、手術後の経過に不安がある方は、専門医への相談をお勧めします。
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