血便が出たときの不安と適切な対応
目次
1.血便が出たときの不安と適切な対応
トイレで血便を見つけたとき、多くの方が強い不安を感じます。鮮やかな赤色の血液が便に混じっていたり、真っ黒なタール状の便が出たりすると、どうしても深刻な病気を想像してしまうものです。
血便は、消化管(食道から肛門まで)のどこかで出血が起きていることを示す重要なサインです。軽度のものから緊急性のs高いものまで、その原因は実に様々です。
「血便が出たけど、何科を受診すればいいの?」
この疑問は、多くの患者さんが抱える切実な悩みです。消化器内科?それとも肛門科?あるいは救急外来?適切な診療科選びは、早期発見・早期治療のために非常に重要なポイントとなります。
私は消化器科・肛門科医として多くの血便の症例を診てきました。患者さんが適切な診療科を選ぶことで、無駄な時間やストレスを減らし、より早く適切な治療を受けられることを日々実感しています。
この記事では、血便の種類や症状に応じた受診先の選び方を詳しく解説します。
2024年に行われた1万2千人規模の大規模アンケート調査では、2年間のうちで黒い便や血便などの便の異変があった方のうち、医療機関を受診した方は36.6%にとどまっていました。2年間という十分な期間においても大腸がんや胃がんの所見である血便に対して対応していないという現状があります。
この記事を読むことで、血便があった際にどの診療科を受診すればよいかがわかるようになり、少しでも受診しやすくなることを願っています。
当院では血便緊急外来を設けており、血便に対してご不安に思う方全てに対して受け皿となれるように努力しています。
2.血便の種類と見分け方
血便は大きく分けて「黒色便(タール様便)」と「鮮血便」の2種類に分類されます。それぞれ出血している場所が異なり、受診すべき診療科も変わってきます。
まずは自分の症状がどちらに当てはまるのか確認してみましょう。
黒色便(タール様便)とは
黒色便は、上部消化管(食道、胃、十二指腸)からの出血が原因で生じることがあります。血液が消化液と混ざり、腸内を通過する間に黒く変色するためですします。
特徴としては、真っ黒でコールタールのように粘り気があり、独特の強い臭いがあります。上部消化管からの出血は量が多いと命に関わることもあるため、黒色便を見つけたら早めに医療機関を受診することが重要です。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、胃がん、食道がんなどが主な原因として考えられます。
黒色便の原因が必ずしも消化管出血というわけではないため、出血がないこともあります。
鮮血便とは
鮮血便は、下部消化管(大腸や肛門)からの出血によって生じます。便に鮮やかな赤色の血液が混じったり、トイレットペーパーに血がついたりする状態です。
痔による出血が最も多い原因ですが、大腸ポリープや大腸がん、炎症性腸疾患なども鮮血便を引き起こします。出血量が少なく、血液の色が鮮やかな赤色の場合は、肛門に近い部位からの出血である可能性が高いです。とはいえ、大腸の肛門の近い部位である直腸、S状結腸が大腸がんのうち70%程度を占めているため、肉眼的に区別をつけることは不可能です。
3.血便が出たときの受診先の選び方
血便を見つけたとき、どの診療科を受診すべきか迷う方は多いでしょう。症状の程度や緊急性によって、適切な受診先は異なります。
ここでは、症状別に最適な受診先を解説します。
緊急性が高い場合は救急外来へ
以下のような症状がある場合は、救急外来を受診してください。
- 大量の出血がある
- 黒色便が続いている
- 血便に加えて、強い腹痛がある
- 血便とともに、めまいや立ちくらみ、冷や汗などがある
- 血便に加えて、発熱や激しい下痢が続いている
これらの症状は、大量出血や重篤な感染症の可能性があり、緊急の処置が必要な場合があります。迷ったら、まずは救急外来を受診することをお勧めします。
救急外来では、血液検査や画像検査などを行い、必要に応じて入院や緊急処置を行います。
消化器内科を受診すべき場合
緊急性はないものの、以下のような症状がある場合は消化器内科の受診をお勧めします。
- 黒色便が出た(量が少なく、全身状態が良好な場合)
- 鮮血便が続いている
- 血便に加えて、腹痛や下痢、便秘などの症状がある
- 便潜血検査で陽性と言われた
- 大腸がん検診で要精密検査と言われた
消化器内科では、内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)を行って、出血の原因を特定します。胃潰瘍や大腸ポリープ、炎症性腸疾患などの診断と治療を行います。
内視鏡検査は、消化管の状態を直接観察できる非常に有用な検査です。当院では鎮静剤を使用した苦痛の少ない内視鏡検査を行っていますので、検査への不安がある方もご安心ください。
肛門外科・肛門科を受診すべき場合
以下のような症状がある場合は、肛門外科や肛門科の受診をお勧めします。
- 排便時に鮮やかな赤い血が出る
- トイレットペーパーに血がつく
- 肛門周囲の痛みやかゆみがある
- 肛門からの出血が続いている
- 痔の症状がある(肛門の腫れ、痛み、違和感など)
肛門外科では、肛門鏡検査などを行い、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)、痔瘻(痔ろう)などの診断と治療を行います。必要に応じて、日帰り手術なども行います。
痔からの出血は鮮やかな赤色で、便器の水が赤く染まるほど出血することもありますが、多くの場合は命に関わるものではありません。しかし、痔があるからといって大腸がんなどの可能性を見逃さないよう、適切な検査を受けることが重要です。
4.血便の原因となる主な疾患
血便を引き起こす疾患は多岐にわたります。ここでは、主な原因疾患について解説します。
上部消化管からの出血(黒色便)
上部消化管からの出血で黒色便を引き起こす主な疾患には、以下のようなものがあります。
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 胃炎
- 食道静脈瘤
- マロリーワイス症候群(嘔吐による食道裂創)
- 胃がん
これらの疾患は、消化器内科で胃カメラ(上部消化管内視鏡)検査を行うことで診断できます。
下部消化管からの出血(鮮血便)
下部消化管からの出血で鮮血便を引き起こす主な疾患には、以下のようなものがあります。
- 痔核(いぼ痔)
- 裂肛(切れ痔)
- 大腸ポリープ
- 大腸がん
- 潰瘍性大腸炎
- クローン病
- 虚血性大腸炎
- 感染性腸炎
痔は最も一般的な肛門疾患で、便秘や下痢、長時間のトイレ、妊娠・出産などが原因で発症します。多くの場合は保存的治療で改善しますが、症状が重い場合は手術が必要になることもあります。
大腸がんは、初期には症状がほとんどありませんが、進行すると血便や便通異常、腹痛などの症状が現れます。40 歳を過ぎたら、定期的な大腸がん検診を受けることが重要です。
一方で、日本の大腸がん検診には大腸内視鏡検査が組み込まれていないため(多くの先進国では50歳のときに大腸内視鏡検査を住民検診でうけることができます)、症状があった場合は積極的に受診して、大腸がんを除外していくことが重要になります。
潰瘍性大腸炎やクローン病は、若い世代に多い炎症性腸疾患です。血便や下痢、腹痛などの症状が特徴で、長期的な治療が必要になります。
5.血便の検査と診断
血便の原因を特定するためには、様々な検査が行われます。ここでは、主な検査方法と診断の流れについて解説します。
問診と視診
まずは、医師による問診と視診が行われます。血便の状態や頻度、他の症状の有無などを聞かれます。
肛門周囲の視診や指診(肛門に指を入れて検査する)も行われることがあります。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、重要な検査ですので協力してください。
内視鏡検査
血便の原因を特定するための最も重要な検査が内視鏡検査です。上部消化管からの出血が疑われる場合は胃カメラ(上部消化管内視鏡)、下部消化管からの出血が疑われる場合は大腸カメラ(下部消化管内視鏡)が行われます。
内視鏡検査では、消化管の内部を直接観察することができ、出血源の特定や組織採取(生検)が可能です。
当院では、鎮静剤を使用した苦痛の少ない内視鏡検査を行っています。検査への不安がある方も、安心して受けていただけます。
また、血便緊急外来を設けており、急な出血に対して止血処置を行うこともあります。
6.まとめ:血便を見つけたら適切な診療科へ
血便は、消化管のどこかで出血が起きていることを示す重要なサインです。軽度のものから緊急性の高いものまで、その原因は様々です。
血便を見つけたときの適切な受診先をまとめると、以下のようになります。
- 緊急性が高い場合(大量出血、強い腹痛、めまいなど):救急外来
- 黒色便(タール様便)の場合:消化器内科
- 鮮血便で腹部症状がある場合:消化器内科
- 肛門からの出血や痔の症状がある場合:肛門外科・肛門科
血便は恥ずかしいと感じて受診を躊躇する方も多いですが、早期発見・早期治療のためにも、勇気を出して医療機関を受診することをお勧めします。
当院では、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査を鎮静剤を使用して苦痛なく行っています。また、痔の日帰り手術にも対応していますので、血便でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
あなたの健康を守るために、私たち医療者は常に最善を尽くします。少しでも気になる症状があれば、早めに受診することをお勧めします。
詳細は辻仲つくば 胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニックまでお問い合わせください。
オリンパス社 胃・大腸がん検診と内視鏡検査に関する意識調査白書2024
https://www.olympus.co.jp/csr/social/survey/2024/pdf/csr_wp_2024_a4.pdf