この記事は、当院の看護師が主体となって、患者様により安全な医療を提供するための取り組みを報告するものです。院長として、スタッフのこのような自発的な成長をサポートできることを、心から誇りに思います。
この記事を読んでいただくことで、当院は鎮静剤を用いた内視鏡検査に対して、軽い気持ちでやっているわけではなく、安全性も考えて真剣に取り組んでいるということをご理解いただけると思います。

目次
1. 私たちの「安全」への想い – 研修参加の背景
2. 救急研修参加レポート
「もし検査中に何かあったら…」
その不安、私たち看護師も同じでした。
だからこそ、救急救命の研修に挑戦しました。
こんにちは、辻仲つくばクリニック看護師のTです。この度、院長の支援のもと、日本救急医学会認定のICLS(二次救命処置)コースに参加してまいりました。患者様が安心して検査を受けていただけるよう、私たちがどのような学びを得てきたのか、ご報告させていただきます。
2-1. ICLSとは? なぜ内視鏡クリニックで重要なのか
ICLSとは、心停止した患者さんに対して、医療従事者がチームで行う高度な蘇生術のことです。除細動器や気道確保、薬剤投与など、一歩進んだ救命処置を学びます。鎮静剤を用いる当院のような内視鏡クリニックでは、万が一の事態に備え、この高度なスキルを持つことが、患者様の安全を確保する上で極めて重要になります。
2-2. ガイドラインを超えて。当院のための、より実践的な訓練
今回の研修では、まず基本として、急変時対応の訓練を徹底的に行いました。しかし、私たちの学びはそれだけではありません。指導教官である救急専門医の先生から直接ご助言をいただき、「鎮静剤を使用した患者さんが、呼吸抑制を起こす」といった、内視鏡クリニックの現場で実際に想定される、より具体的なシナリオでのシミュレーション訓練も行っていただきました。これは、教科書通りの訓練だけでなく、私たちの日常業務に直結した、極めて実践的な学びでした。
2-3. チームで高める、鎮静内視鏡の安全性
さらに研修では、ICLSの標準コースから一歩踏み込んだ、「クリニックという限られたリソースの中で、いかに迅速かつ効果的にチームを機能させるか」という、より高度なディスカッションも行いました。
今回私が持ち帰った一番の「お土産」は、個人の技術だけでなく、辻仲つくばクリニック全体の安全レベルを向上させるための具体的な仕組みや共有すべき視点です。この学びを、これから院内の勉強会などを通じて、医師・看護師・技師すべてのスタッフに共有していきたいと思っています。
(看護師:T)
3. 内視鏡鎮静ガイドラインも踏まえた院長の視点
Tさん、素晴らしいレポートをありがとうございます。研修で学んだ知識を、どうすればクリニック全体の力にできるか、という非常に高い視座で考えてくれていることが伝わってきました。
私たち専門家が常に立ち返るべき「消化器内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」には、非常に重要な一文があります。それは、海外の先進的な鎮静法をそのまま日本に導入するには、「日本では医療スタッフが十分な救急トレーニングを積んでいない可能性があり、その点を考慮する必要がある」という趣旨の、いわば警鐘です。
つまり学会自身が、「安全な鎮静のためには、スタッフの救急対応能力の向上が不可欠だ」とメッセージを発信しているのです。今回の研修参加は、まさにこの学会が示す課題意識に対し、私たちがクリニックとして真正面から向き合うための、必然的な一歩でした。
レポートにあるように、ガイドラインに準拠するだけでなく、当院の実際の診療場面を想定した訓練を積んできてくれたことは、計り知れない価値があります。今後もこの部分を継続的に強化し、チーム全体の対応力を高めていきたいと、改めて強く思いました。
まとめ
古代ギリシャの医師ヒポクラテスの誓いにもある、『Do no harm(汝、害することなかれ)』という言葉。すなわち、患者さんに決して危害を加えない、という医療の原点です。
私たちが提供する「苦痛のない内視鏡検査」も、その安全性が絶対的に確保されていて初めて、真の価値を持つと信じています。私たちの知識や技術、そしてチームワークのすべては、この『Do no harm』というシンプルな原則を、高いレベルで実践するためにあります。
当院の鎮静内視鏡検査について
当院では、胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査がご不安という方に対して、鎮静剤を用いた苦痛の少ない検査を提供しています。つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県全域の広い地域から多くの患者様が来院されています。血便、便潜血検査陽性、胃痛など、内視鏡検査を行う必要があると思っているけれど、ご心配な方にご利用いただいています。
よくある質問
今回の記事でご紹介したように、当院の看護師に対してICLS(二次救命処置)の研修を推奨・支援しています。また、内視鏡技師などの高度技能の取得も推奨・支援しており、急変時の対応について専門的なトレーニングを積んでいます。また、院内には救急カートや酸素投与装置など必要な機器を完備し、定期的にシミュレーション訓練も行っています。
そのお気持ち、非常によく分かります。便潜血検査・大腸がん検診などのように自覚症状がないのに、わざわざ時間を作って、つらいかもしれない検査を受けることに、ためらいを感じるのは当然のことです。
しかし、大腸がんやその前段階である大腸ポリープは、早期のうちは症状が全くないことがほとんどです。症状がない段階で見つけて治療することこそが、大腸内視鏡検査の最も重要な目的なのです。
私たちがこの記事でご紹介した「チームでの安全体制」や「鎮静剤を用いた無痛の工夫」は、まさに、症状がないにも関わらず、将来のために検査を受けなければならない方の、その抵抗感やご不安を限りなくゼロに近づけるためにあります。
鼻からの内視鏡は確かに嘔吐反射が少ないという利点がありますが、実は患者様によって感じ方は大きく異なります。鼻の違和感や圧迫感を「つらい」と感じる方も少なくありません。当院では経鼻内視鏡も選択可能ですが、より確実に苦痛を軽減したい方には鎮静剤の使用をお勧めしています。
現在、段階的に研修参加を進めています。今回ご紹介したように、まず意欲的なスタッフから研修に参加し、その学びを院内で共有する体制を整えています。また、定期的な院内勉強会などを行い、チーム全体の対応力向上に努めています。当院では、スタッフの継続的な教育を重要視し、今後も計画的に研修参加を支援していく予定です。
● 日本救急医学会認定 ICLSコース公式サイト
https://www.icls-web.com/
● 消化器内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版) 日本消化器内視鏡学会, 2020年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/62/9/62_1635/_html/-char/ja