胃がんは年々発症率・死亡率が減少してきてはいるものの、依然として日本人に多いがんのひとつです。特に50歳以上の方にとっては、早期発見がその後の人生を大きく左右する重要な健康課題です。自治体が実施する「対策型胃がん検診」では、バリウム検査または胃内視鏡検査(胃カメラ)を選べますが、近年では内視鏡検査の有効性が科学的にも明確になってきました。
本記事では、厚生労働省の助成のもとで策定された「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル」をもとに、胃がん検診における内視鏡検査の意義、リスク、安全性、検査の適正間隔などを、消化器内視鏡専門医の立場から解説いたします。
院長の森田が監修・作成した動画です。動画で知りたい方はこの動画をご参照ください。
胃がん検診の対象外、鎮静剤での検査がどうしても必要などでご不安なかたのご相談も受け付けています。
目次
1. 日本人にとって胃がんは依然“無視できない”がん
国立がん研究センターのデータによれば、胃がんは依然として大腸がんに次ぐ発症数2位のがんです。ピロリ菌感染率の低下に伴い、発症率は減少傾向にありますが、50歳以上の世代においてはなお高い水準にあります。
2021年に行われたWeb調査では、「早期胃がんは90%以上が治る」と正しく認識していた人は全体の約30%しかおらず、胃がんに対する正しい理解がまだ浸透していないのが現状です。
一方で、実際には早期胃がんの5年生存率は98.8%(全国がんセンター協議会報告)と非常に高く、いかに早く見つけるかが予後を大きく左右します。だからこそ、定期的な胃がん検診の重要性が強調されているのです。
2. 胃カメラ(胃内視鏡検査)の意義と位置づけ
胃がん検診においては、バリウム検査と胃カメラの2種類のスクリーニング方法が用意されています。従来はバリウムが主流でしたが、2014年には胃カメラが正式に対策型検診の手法として追加され、その精度と有効性が国により認められました。
胃内視鏡の最大の利点は、胃の粘膜を直接観察できることです。色調変化や微細な凹凸など、バリウムでは見逃されがちな初期病変も捉えることが可能です。また、必要に応じてその場で組織を採取し、生検を行える点でも大きな優位性があります。
胃内視鏡検診マニュアルでも、これらの利点を根拠に、より正確で早期発見に優れた検査方法として位置づけられています。
3. 科学的に証明された「胃カメラによる死亡率の低下」
胃カメラによる胃がん検診の有効性は、複数の研究により明確に示されています。
3-1. 国内における評価
鳥取県や新潟市で行われた自治体レベルの検証によると、3年以内に胃カメラを1回以上受けた場合、胃がんによる死亡率が約30%減少したことが確認されています。一方で、バリウム検査では統計的に有意な死亡率の低下は確認されませんでした。
3-2. 国際的な研究成果
韓国では、国家がん検診データベースを活用した大規模研究(約1,700万人対象)が行われました。その結果、40歳〜79歳の年齢層で、1〜3年以内に胃カメラ検診を受けた人は、胃がんによる死亡率が50〜70%低下したと報告されています。対照的に、同期間内にバリウム検査を受けた人の死亡率低下はわずか**7%**にとどまり、胃カメラの優位性が際立つ結果となりました。
4. 胃カメラにともなうリスクと安全性
医療行為である以上、胃カメラにも一定のリスクは存在しますが、適切に管理された施設で実施されれば、そのリスクは極めて低いとされています。
4-1. 見逃しの可能性
胃カメラによる検診では、まれに病変が見逃されることもあります。鳥取県米子市の報告では、胃がんが存在していたにも関わらず異常なしと診断された割合は、初回検診で4.5%、継続検診で3.3%でした。
この点について胃内視鏡検診マニュアルでは、「検査精度は実施施設の体制、技術レベル、観察時間によって大きく左右される」と明記されており、専門的な経験と設備を備えた施設で受けることが極めて重要であるとしています。
4-2. 偶発症(合併症)の発生率
2016年の日本消化器がん検診学会の報告によれば、胃カメラによる合併症の発生頻度は10万人中71.9件。そのうち、入院が必要となるケースは1人未満、死亡例はゼロという非常に安全性の高い検査であることが証明されています。
最も多い合併症は、経鼻内視鏡での鼻出血で全体の約8割を占めています。他には組織採取に伴う出血、アレルギー反応などが報告されていますが、いずれも稀な事例です。
5. 胃がん検診における検査間隔の基準
胃内視鏡検診マニュアルでは、検査の推奨間隔も明示されています。
5-1. 50歳以上の方
胃がんのリスクが上昇する50歳以上の方には、2〜3年に1回の胃内視鏡検診が推奨されています。この頻度であれば、見逃しのリスクを低減しつつ、不要な過剰検査を避けることができます。
5-2. 50歳未満の方
韓国の研究では40代でも効果が確認されていますが、日本では若年層の胃がん罹患率が低下しており、全国的な一律の推奨には至っていません。ただし、ピロリ菌感染歴、家族歴、胃潰瘍などの既往がある方は、医師と相談のうえ、個別に受診を検討する価値があります。
6. 当院の胃がん検診における取り組みと強み
当院は、つくば市の対策型胃がん検診に正式対応する施設として、安心・正確・快適な内視鏡検査の提供を目指しています。
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経鼻内視鏡など苦痛の少ない検査法を採用し、不快感をできる限り軽減
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AIを搭載した高性能内視鏡機器により、微細な異常も高精度に捉える
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日本消化器内視鏡学会専門医による熟練の検査体制
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検査前後の丁寧な説明とサポート体制
検診に不安がある方にも寄り添い、安心して検査を受けていただける環境を整えています。
7. 胃がんは早期発見で治せるがん。だからこそ、正しく備えることが大切です
胃がんは、早期に発見できれば極めて高い確率で治癒が見込めるがんです。一方で、症状が出るころには進行していることも少なくありません。
だからこそ、自治体が実施する対策型検診を活用し、適切な間隔で検査を受けることが何より重要です。
「バリウムは飲みづらい」「精密に診てもらいたい」そんな思いをお持ちの方は、ぜひ胃カメラでの検診をご検討ください。当院では、苦痛の少ない検査と高精度の診断を両立し、皆様の健康をサポートいたします。
AIを活用した最新の内視鏡機器と消化器領域の専門医による丁寧な検査で、安心して受けていただける環境を整えています。当院には、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県外も含めて広い地域から多くの患者様が来院されています。
【作成・監修】
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック
院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医)