最近AIの進歩が目覚ましく、日常生活や業務に取り入れている例も増えていると思います。
今回は、大腸内視鏡検査におけるAI補助による内視鏡検査について解説します。
当院では2024年から導入しており、活躍しています。
我々のように大腸内視鏡検査に慣れた医師の場合は、そこまでAIの恩恵を実感するわけではないですが、ふとした時に小さいポリープを私よりも早く見つけてくれることがあります。
近年はクリーンコロン(大腸ポリープがない大腸)の状態を目指すのが主流ですので、そこに寄与する可能性があると実感します。
2024年の日本消化器内視鏡学会(JGES)のステートメントをもとに、大腸内視鏡検査におけるCADe(病変検出支援)をメインに、その可能性と限界について分かりやすくまとめます。
結論を先に記載すると、AIによる病変検出支援で検査の質が向上する可能性があるものの、使用には注意が必要であるため、専門医がいる環境で適切な質の管理を行うことが重要です。
当院には多くの専門医が在籍しており、AI技術がもたらしうるデメリットを最小限に抑え、実際の臨床現場で有効活用できる体制を整えております。
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目次
1. 大腸内視鏡における病変検出支援AI (CADe)
CADe(Computer-Aided Detection)は、大腸カメラの映像をリアルタイムで解析し、ポリープなどの病変が疑われる部位を強調表示してくれるシステムです。下記のようなメリットが期待されています。
- 病変の見逃し率の低減
小さなポリープや平坦型の病変など、医師の目だけでは発見が難しいケースでも見つけやすくしてくれます。
- 検査の質の向上
初心者からベテランの内視鏡医まで、補助として使うことで見落としを減らし、検出率を高めやすくなります。
ただし、あくまで医師の目と技術を補助する機能であり、“完全に機械に任せればOK”というものではありません。CADeを最大限に活かすためには、専門医の経験や判断が欠かせません。
2. JGES 2024年ステートメントのポイント
まずは学会のステートメントのポイントを紹介いたします。
2-1. 腺腫検出率向上が期待できる
大腸がんの前段階とされる「腺腫」の見落としが減ることで、大腸内視鏡検査の質が高まります。
実際に研究では、腺腫検出率が約8%上がったとの報告もあります。
こういった点をふまえて、CADeの活用により小さな腺腫の発見率を高め、大腸内視鏡検査の質向上に寄与する可能性があると考えられます。
近年では、小さいポリープも切除して、将来の大腸がんのリスクを減らす、クリーンコロンと呼ばれる方針が主流ですので、そういった文脈での貢献が期待されています。
2-2. 術者の経験による恩恵の差
内視鏡経験が浅い医師のほうが、CADeの補助で見落としを減らす効果が高いと言われています。
一方、ベテラン医師の場合はもともとの検出力が高いこともあり、恩恵が小さい可能性があります。
こういった点をふまえて、CADeが特に経験の浅い術者の見落とし率低減に役立つ一方、熟練医には補助的効果にとどまる可能性があると考えられます。
2-3. 大腸がん罹患・死亡の減少への貢献は「期待はあるが未確定」
CADeによって小さな腺腫を多く見つけられれば、将来的に大腸がんの発生や死亡率を抑えられることが期待されています。
ただし、まだデータが十分でないため、統一された見解は出ていません。
こういった点をふまえて、大腸がん罹患・死亡率の低減が期待されるものの、現時点では長期的効果についてさらなる研究が必要と考えられます。
2-4. 費用対効果の面で“優位性がある可能性”
CADeを導入すると、一時的にはポリープを見つける数が増え、切除や検査回数も増えるかもしれません。
しかし、そのぶん将来的に大腸がんになる人が減ることで、トータルの医療費を抑えられる可能性があります。
こういった点をふまえて、CADeは長期的な医療費抑制に寄与する可能性を持つ一方、適切な運用と費用対効果の検証が不可欠と考えられます。
実際、ヨーロッパのガイドラインでは費用対効果なども鑑みて、大腸内視鏡検査へのCADeは推奨とはされていません。
2-5. CADe導入時の不利益は報告なし、ただし検査負担などの増加に留意
CADeを導入しても、有害な合併症が増えたという報告はありません。
ただし、検査時間の延長や次回以降の検査頻度が増えるケースもあり、患者さん・医療機関の負担が大きくなる可能性は指摘されています。
こういった点をふまえて、CADe導入による患者さんの負担と医療側の運用コストを十分に考慮し、質の高い検査を維持するための対策が求められると考えられます。
3. 先進的技術には専門医のサポートが不可欠
CADeをはじめとするAIを安全かつ有効に活用するためには、専門医が在籍し、質の管理をしっかり行える環境が重要です。
そもそもしっかりと画像を描出することが重要であり、さらにAIが提示した情報を、人間の経験でどのように評価・活用するかによって、患者さんへのメリットが大きく変わります。
1年間使用してみて注意点も分かってきました。
見えない病変は見つけられない
AIはあくまでも撮影された情報から病変を抽出する方法です。あくまでもしっかりと大腸全体を観察する必要があり、検査医の技量が最も重要です。必要に応じて疼痛コントロールを行うなど、単純な検査の技量のみならず、検査をトータルでみて質を高く管理する必要があります。
AIの所見を信じすぎない
AIが見つけた疑わしい部分が、実際には問題のない組織であることもしばしば。最終確認は熟練の医師が行い、無用な切除を避けるようにしています。
実際に、AIが認識できない、大きいけれど泡の陰にあるような病変にもよく遭遇します。
将来的にはこのような怪しいポイントも教えてくれるようになるんだとは思いますが、現状ではそこまでのレベルには達していないです。
また、かなり頻繁にAIが病変らしいポイントを教えてくれるのですが、実際にポリープであることはほとんどないです。
一方で、こういった技術について、徐々に臨床現場で慣れていくことが重要と我々は考えているため、明らかに過信しすぎてはいけない現状でAIを用いることは有用と思っております。
実際には、小さい病変について、私よりも早くポリープを見つけてくれることもあるため、あった方がよいです。
4. まとめ
- CADeは小さな腺腫を発見しやすくし、大腸内視鏡検査の質を高める可能性が高い。
- 進行した腺腫やがんの発見、死亡率の抑制効果はまだ不確定だが、期待は大きい。
- AIのメリットを引き出すためには、医師の経験や施設の体制が不可欠。
- 当院では、多くの専門医による豊富な実績と徹底した質の管理を両立し、実際に使えるAI活用を実現しています。
AIがあっても、結局はしっかりと検査を行うことが重要です。
つまり、機械のみならず、鎮静剤を用いて鎮痛コントロールを行いしっかり観察する、適切な腸管洗浄液を用いて観察しやすい状態にするなどが重要です。
先進技術と専門医の知見が合わさることでこそ、患者さんにとって安心・安全な大腸内視鏡検査が提供できるのです。
当院では、鎮静剤を用いた無痛内視鏡検査、複数種類の腸管洗浄剤、半個室空間を用いた院内下剤、専門医などAIを最大限に活用できる環境を整えています。
「どうせ大腸内視鏡検査を行うのであれば、AIを用いた質の高い検査をうけたい」——そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。
当院には、つくば市をはじめ、土浦市、牛久市、つくばみらい市、常総市、石岡市、阿見町、守谷市、龍ケ崎市のみならず、茨城県外も含めて広い地域から多くの患者様が来院されています。
よくある質問
- Q1:AIを使った内視鏡検査には種類がありますか?
A1: 内視鏡検査のAI活用については、病変を見つける機能と質の診断の二つがあります。当院の大腸内視鏡検査のAIについては、どちらの機能もあります。今回の記事は病変を見つける機能についてのみ記載いたしました。
- Q2: AIを用いる事のデメリットはありますか?
A2:デメリットの定義次第ですが、病変が多く見つかる可能性があるため、内視鏡治療が必要となる可能性が高まります。結果として医療費が上がる可能性もありますが、将来の大腸がん治療の医療費を減らす可能性もあるため、デメリットとは言い切れません。
【作成・監修】
辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック 院長 森田 洋平(日本消化器内視鏡学会 専門医)